第１８話『おうまさんといっしょ②』-1
１０月○日。
朝、みんながケイの周りに集まっていて、どうしたのか尋ねたら、ケイは学校を辞めるそうだ。 親の転校か何かだろうと思っていたら、ケイとケイのお母さんと『２人で軍馬に応募する』と聞いて驚いた。 いつも本ばかり読んでいて、成績も中の中くらいで、運動神経もどっちかっていうと鈍い方で、帰宅部で無口で化粧ッ気もない……とにかくクラスでも全然目立たないケイが、自分から軍馬になろうだなんて……。
休み時間、本人を捕まえて問い質してみた。 だって、あたし達みたいな学生が軍馬を目指すなんて、信じられなかったから。 でも、理由を聞いて納得した。 ケイのお父さんとお兄さんが『ＡＵＡ（アンチ・ウマ・アソシエーション）』の集会に参加して、その場で騎兵に逮捕されてしまったのだ。 ２人とも初犯だけれど、無許可集会に参加したとなれば、最低でも懲役２年。 集会が集会だけに、最長の懲役５年＋国外追放も十二分に可能性がある。 でも、家族が軍馬になれば、近親の恩赦又は執行猶予が認められるそうだ。 だから家族で相談して、お母さんはお父さんのために、ケイはお兄さんのために、軍馬になることに決めたらしい。 今すぐ学校を辞めるのは、一日でも早く軍馬になって、国外追放になる前に恩赦の権利を貰うため。 今なら最年少軍馬ということで、もしかしたら刑期の短縮まで達成できるかもしれない。 ケイは『正直自信はないけど、一生懸命頑張るつもり』といって、寂しそうではあったけど、固い決意が籠った瞳だった。
家族のため、自分を犠牲に……あたしにはこれっぽっちも無い発想だ。 正直、１ミリたりとも共感しない。 姉が犯罪を犯したとしても、それが理由であたしが軍馬になるかというと……有り得ない。 ただ、ケイはあたしに教えてくれた。 『学校を辞めて軍馬を目指す』という、そんな選択肢があるということを、だ。 あたし自身が軍馬になる……今まで考えてもみなかったけど、真剣に考える価値はあるのかも知れない。 現状、中途半端に軍に支配されるくらいなら、徹底的に支配された方が、悩まなくていい分スッキリ出来るような気も、ちょっぴりする。
テレビで幼児向け番組をやっていたので、特にすることもないのでポケーッとしながら眺めてみた。 子供がリアルなウマをみて、どう思うんだろう？ 人間とウマの違いが果たして子供に分かるんだろうか？ まあ、あたしだってちゃんと理解しているか怪しいもんだから、偉そうなことはいえないけどね。 でも、おねーさんがウマをビシバシ鞭打つのをみて育つのか、なんて考えだけで暗い気持ちになる。 こういうのに出演してる俳優（？）は、自分が子供に悪い影響を与えてるとか考えないんだろうか？ 考えないんだろうなぁ……そんな余裕なさそうだもんね。
今日も法律が追加。 個人的に久々に謎な内容だ。 『履歴書国定法』といって、企業や官公庁に応募する『履歴書』の書式が統一されることになった。 変更点を３つ、メモしておく。 『性別が、男女から『男・女・牝』に正式に変更された』、『身長、体重、ＢＷＨ、初潮年齢の欄が出来た』、『ウマ履歴（ポニー研修受講の有無、裸馬歴、露馬歴、軍馬歴の総称）の欄ができた』 どれもあたしにすれば不愉快なんだけど、特に気になるのが最後の項目だ。 『ウマ履歴』って……ええっと、ウマになったことがあるかどうかを履歴書に書くってことは、それが就職に影響するってことだろうか。 つまり、例えばウマになった方が採用されやすいとか、もっと酷いケースだと、ウマになった経歴がないものは振るい落とすとか、これからはそういう展開になる、またはそうなる可能性があるってこと？？ さっぱり意味が分からない。 女性に対する嫌がらせにしては意味深だし、手がかかりすぎてる気がするし……。
こういう法律って、いったい誰が考えてるんだろう？ 自分の好きなように法律をつくって、問答無用で従わせられるんだから、さぞ楽しいことでしょう。 従うあたし達のことなんて、これっぽっちも考えてないんだろうな……はあ、なんでこんな世の中になっちゃってるんだろう。 時計の針を巻き戻したいです。