投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

迎春。
【その他 その他小説】

迎春。の最初へ 迎春。 8 迎春。 10 迎春。の最後へ

季春。-2

 が、そこは定岡雪二。タラシではないが女性の扱いには慣れている。慌てず騒がずきちんとフォローする。
「いや、別に優梨ちゃんがコワイ性格なんじゃなくて。彼女達にとってはちょっと、ほら苦手な人?」
「……………」
「衝撃的な出会いって言うかさ」
「…………まぁ、確かにそうですけど」
 それは認めざるを得ない事実だった。
 雪二先輩が三年の海外留学を経てこの大学に助手として舞い戻ってきた時、学内は――まぁ女子を中心に――とんでもない騒ぎになった。
「ほら、あれが特にすごかった。…『ちょっと顔が良くて頭がいいからって、騒ぎ過ぎなんじゃありません?』ってやつ。自分の事なのに、確かに、って納得しちゃったよ」
「……それは、自分が『ちょっと顔が良くて頭がいい』のを自覚してるって事になりません?」
 私が言外に皮肉を込めて言うと。
「ああ…まあ多少はね」
 なんとも目眩のするセリフを、あの柔らかい微笑みと共に言われ、私はノックアウト寸前になったのだった。


 講義までまだ時間があったので、私は先輩と一緒に経営学科第二研究室へと向かった。
「失礼しまぁす」
「お、優梨ちゃん。…ゆっきーも来たかぁ」
 私たちの姿を認めると、丁度いい、と言いながら先生――菱川助教授は椅子から立ち上がった。
「コーヒー入れようと思ってたんだよ。二人も飲むだろ?」
 そう言うと、先生はいそいそと台所に向かった。
「先生、私が入れましょうか?」
「いいよー。二人は座ってて」
 ウキウキとした声のあと、しばらくして鼻唄まで聞こえてきた。
「ごきげん、ですね……」
「なんかいい事あったのかな」
「さあ…。でもたぶん、ふーこ絡みだと思いますよ」
 先生の教え子であり恋人のふーこ、西沢風子は私が中等部からの親友だ。最初は二人の交際についてかなり複雑な心境だったのだが、半年以上経過した今はだいぶ受け入れつつあった。
「……やっぱ、まだ認められない?」
「はい?」
 いきなりの言葉に間抜けな声を出してしまう。気がつくと、先輩が私の顔を伺うように見つめていた。
「――菱川さんと西沢さんの事。まだ、駄目?」
「ああ……」
 何を言い出したのか、と思った。
 以前に先輩が先生とふーこについて尋ねてきた時、私は少し曖昧に答えた。そこを先輩に鋭く突かれ、結局白状させられたのだ。
「…今はだいぶ。慣れ、ですかね」
「そう……」
 読み取れない表情でそう呟く。心配していると言えばそうなのだが、それ以上の何かがあるような気がして、先輩に聞こうとした。
 その時。
「はい、お待たせぇ…っと、なんか邪魔しちゃった?」
 菱川先生が両手にコーヒーカップを持ってこちらにやって来た。
「いえ。…別に」
「………?」
 少し私と先輩の顔を注視すると、先生はふーん、と言いながら自分の分のコーヒーを取りに行った。私は目の前に置かれたカップを手に持ち一口飲む。
 この部屋に入ってから、顔色を伺われてばかりな気がする。
 しばらくしたら来るであろうふーこが、やけに待ち遠しかった。


迎春。の最初へ 迎春。 8 迎春。 10 迎春。の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前