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S・S lover
【悲恋 恋愛小説】

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S・S lover-2

「俺と結婚してほしい。これからの人生、1秒1秒を大切にしながら詩織と一緒に歩んでいきたい。」
誠也が詩織の前に指輪を差出し、詩織の目を見つめながらプロポーズした。詩織にとって長い長い一瞬だった。突然のプロポーズだったが誠也の言葉が胸に響いて、詩織は嬉しさのあまり涙を流しながら
「…はい。‥幸せにしてください。」
最後の方はかすかに聞こえる程度の小さな声だったが、詩織は精一杯の声を出して誠也に答えた。


あのプロポーズから半年が経ち、ついに2人の結婚式の日がやってきた。2人の結婚式だというのに天気はあいにくの雨で詩織は少々残念な気分だったが、それ以上に肝心の誠也がまだ式場に姿を現わしていないのである。
「遅いなぁ〜誠也。何してるんだろう…。」
ウエディングドレスをすでに着ていた詩織は雨の降りしきる窓の外をずっと見ていた。
と、そこに誠也のお母さんが息を切らしながら部屋に走り込んできた。
「詩織さん!誠也が…誠也が交通事故で!交通事故に遭って、今病院に運ばれてるの!すぐに来てちょうだい!!」
詩織は誠也のお母さんの言う言葉が信じられなかった。‥いや、信じたくなかった。あまりにも突然に突き付けられた言葉に頭は混乱していたが、体は勝手に誠也のお母さんの後を追ってタクシーに乗り込んでいた。詩織はタクシーの中でひたすら誠也の無事を祈っていた。式場から病院まで10分程の距離なのに詩織にはとてつもなく長い時間に思えた。
(誠也、どうか無事でいて…)

病院にタクシーが着いて詩織はすぐさま病院の中に駆け込んだ。ウエディングドレスを着た女性が病院内を走り抜ける姿に看護婦や患者の人達は驚いていたが、今の詩織にそんな視線は全く気にならなかった。ただ誠也の無事だけを祈って走っていた。

手術室の前で詩織と誠也のお母さんは椅子に座って誠也の手術が終わるのを待っていた。しばらくして、誠也のお母さんが口を開いた。
「詩織さん‥。誠也ね〜、本当に詩織さんとの結婚を喜んでてね〜。昨日、電話だったけど誠也と話をしたんだよ。まず今まで育ててくれてありがとう、ってね〜。『詩織との結婚が決まって初めて母さんに心からありがとうって言える気がするよ。』だなんて言うもんだから、私電話越しに泣いちゃってね〜。今までも詩織さんとの事を真剣に考えてるって何度も聞いてたんだけど、あんな事言うの初めてだったから嬉しくて…」
誠也のお母さんはまだ詩織に喋り掛けていたが、詩織の耳には届いていなかった。誠也の事を聞いて詩織は我慢が出来なくなり泣いていた。

手術中のランプが消え、医者が中から出てきた。詩織はすぐさま立ち上がり医者のもとへ駆け寄り
「誠也は!誠也は無事なんですか!?」
医者は視線を落とし首を横に小さく振り
「手は尽くしたのですが、出血が多かったので‥。残念ですが…。」
詩織の頭は着ていたウエディングドレスの様に真っ白になった。後ろでは誠也のお母さんが泣いていたが、その泣き声も詩織には単なる雑音にしか聞こえなかった。
ただ立ち尽くす詩織の所に一人の看護婦が近づいてきて
「詩織さん‥ですよね?」放心状態の詩織に声を掛ける看護婦は申し訳なさそうに続けた。
「誠也さんが救急車の中でずっと『詩織、詩織』っておっしゃってて、最後に『結婚』って言ってたんですよ。誠也さんは最期まで詩織さんの事を想ってたはずですよ。」
看護婦の言葉が終わる頃には詩織の目から涙が止まらなくなっていた。病院の窓から見える外の世界はまるで詩織の感情を表しているかのようだった…。


誠也の写真の前にもお酒を出して、詩織は指にはめている指輪を見ながら窓の外で奏でる雨の音をぼーっと聞いていた。

いつまでも誠也の事を想いながら…


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