第４話『素人ドッキリマル秘報復』-1
９月○日。
セントラルパークに新しくできた施設に行ってきた。 『乗馬体験パドック』といって、軍と市民の交流を兼ねているそうだ。 ちなみに馬といっても『ポニー』や『サラブレッド』なわけがなく、もちろん女性をギチギチに拘束した『軍馬』のこと。 あたしは気が進まなかったけれど、ヨアンが是非行ってみたいっていうから、不承不承ついていった。 行った以上は日記に書かなきゃいけない気がするから、備忘録代わりにメモしておく。
わざわざ軍に近づく市民が多いわけなくて、施設はガラガラに空いていた。 案内してくれたのは騎兵の徽章をつけた女性士官。 ただ、物腰はすごく柔らかかった。 初めて軍人と喋ったのだけれど、思ったよりずっと優しいし、途中で相手が軍人なことを忘れるくらい気易い人でビックリした。 最初連れていかれたのは、繋留所といって、軍馬を繋いであるところ。 一見するとメリーゴーランドみたいで、天井から伸びた鎖が軍馬の首輪に繋がっている。 回転する天井に合わせ、全裸の女性が円を描きながら延々と闊歩していた。 ピンと爪先を伸ばしたまま膝が水平になるまで足を挙げて歩いており、ラバースーツは着けていないけれど、歩き方が街頭の軍馬そっくりなので、裸だけれども彼女たちが軍馬だと解る。 『この中から好きな軍馬を選べ』『これから乗馬させてあげる』というので、あたしは近くにいた大柄な黒髪の女性をお願いし、ヨアンは一番おっぱいが大きな女性を選んだ。 首輪を鎖から外されてやってきた女性は、２人とも賢そうで、スタイルが良くて、なんでこんな人が馬なんだろう？ 人間のくせに馬になるなんて、恥ずかしくはないんだろうか？ ずっと爪先立ちのまま直立し、胸もオマンコも隠そうともしない。 どちらにしても背筋を凛と伸ばす姿は、彫刻と間違えるくらいに綺麗だった。
着替えはあっという間だった。 士官が軍馬用の衣装一式が揃った檻を運んできて、全裸の女性の前で戸を開く。 女性は２人とも即座に四つん這いになって檻に入った。 全裸から軍馬スタイルに衣装一式着替えるまで、本当にあっという間で、ものの１分も経ってないと思う。 『全身タイツ式ラバースーツ』に『蹄鉄付きブーツ』、『尻尾付アナルプラグ』と『バストカップ』、口に『ゴム製馬鋲（ハミ）』、耳に『ポニー用イヤーカップ』、両目には『ブリンカー（遮眼革、視界を制限するための目隠し）』、鼻には『フック付きシャドーロール』、頭は『ポニーヘア（たてがみ代わりに、束ねて結んだ長髪をスーツの頭頂部に開けた穴から出す）』……檻の中で着替える様子を見せながら、士官がそれぞれ備品についた名前を教えてくれた。 あたしが選んだ軍馬の方がほんのちょっと着替えるのが早かったけど、理由はヨアンが選んだ軍馬が、おっぱいが大きすぎるせいだと思う。 明らかにラバーがパツパツだったし、ゴム製のスーツが窮屈そうだった。 ５秒遅れて檻からでたところで、ヨアンの軍馬は士官にお尻を５発叩かれた。 それなのに痛そうな表情１つ見せず、ジッと黙って立っていたから、もしかしたら士官がひっぱたいた鞭は、音ばっかり大きくて大して痛くない鞭なのかもしれない。
その後、あたし達にあった鐙（あぶみ）と鞍（くら）を軍馬に着けて貰い、あたし達は施設の中を散歩した。 士官がハミにつけた轡（くつわ）を引いてたので、あたし達は乗っているだけだ。 本当は両手は何も持たず、太腿の締め具合と鞭で軍馬に指示を出すらしい。 あたし達は素人だから手綱をもたせて貰い、ゆっくり静かに散歩した。 途中で士官が『走ってみる？』とか『障害を跳んでみたら？』と誘ってくれた。 ヨアンは手綱を思い切り振って、施設のパドックにあるハードルを超えたり、水郷を駆け抜けさせたり、植え込みを飛び越えさせたり楽しそうだった。 あたしは怖かったし、それに軍馬の女の人に気が引けたから、乗せて貰うだけで十分だ。 ３０分くらい軍馬に乗せて貰ってから、あたし達は士官に御礼をいって施設を後にした。 街で見慣れ過ぎて、軍馬が人間なことを忘れそうになってるけど……彼女たちは間違いなく人間なわけで。 ああやって平気で乗ったこと自体、昔のあたしなら考えられない。 だけどちょっぴり楽しかったのも事実なわけで……あたし自身、ちょっとずつ思考が麻痺してる部分は、正直いってゼロとはいえない。 でも、自分がおかしくなってるって自覚してないわけじゃないんだけど、だけどそんなの考えてもしょうがないし……誰も助けてくれないから、だったら順応するしかないっていうか……。