２６．うんち芳醇-4
……。
『早便検査』
経口投与されたものをいかに素早く排泄するか、便の生産速度に対する検査だ。 生体部品はただでさえ装置全体の律速段階になりやすい。 便の生産は外部からコントロールし辛く、どうしても少女の個人性能に依存する。 だからこそ素早く咀嚼、嚥下、消化、排泄する能力は大切で、基本性能が劣る場合『ぶりぶりマスター』とは認められない。
検査開始以来ずっと嵌められていた『栓付箝口具』が外され、少女の顔に対する拘束は、もはや目隠しされているだけだ。 少女らは机から下り、静かに前屈みで床に這う。 顔の前に置かれたのは、普段少女が排泄していたオマルだった。 今はオマルから『餌入れ』に代わり――といってもまたすぐにオマルに戻るのだが――、ウマゴヤシと燕麦が山盛りに盛られている。
「３、２、１……食えっ」
「もがっ、もぐっ、がふがふがふ……っ」
何の捻りもない号令にあわせ、少女たちは山盛りの餌に突進した。 口が裂けるほどに大きく拡げ、口腔いっぱいに頬張り、噛む。 食事の際は御淑やかに、必要最低限だけ口を拡げ、体内粘膜は見せないようにするのが慎みの作法であるが、少女たちには関係ない。 鼻から飼料の断片をまき散らしながら、とにかく口をパンパンにさせながら噛んで噛んで、噛みほぐす姿は、ひたすらに浅ましくみっともない。
けれど、少女たちが浅ましく振舞うのは無理からぬ話で、食事から排泄まで、与えられた時間は１時間しかない。 しかも流動食ではない、正規の飼料で便を生産しろという。 ポイントは、１にも２にも『速度』だろう。 ゆえに少女らに慎み深さを演出する贅沢は許されず、ひたすら全力で餌を貪り、一刻も早く胃に収めることになる。 続いて『咀嚼』だ。 胃の腑に収める前にどれだけ噛み砕くか、唾液を混ぜておくかが後々効いてくる。 可能な限りたくさん頬張り、栗鼠の頬っぺたでアグアグと顎を動かす方が唾液の分泌も促進される。 つまり少女たちの食事風景は、全てひなこを介した和美の助言に則っていた。
「くっちゃ、くっちゃ、もぐもぐもぐ……」
「あんむ、あぐっ、はぐはぐはぐっ」
一心不乱に、顔をオマルに埋めるようにして。 山盛りの飼料を貪る少女たちは、やがて綺麗にオマルの中味を平らげた。 傍に飛び散った飼料やオマルの壁に付着した燕麦まで、
「ぺろっ、あんむ、ちゅっ……ぺろぺろ、れろ……」
舌で舐めとって綺麗に掃除する。 排泄量が少なすぎると『早便』に認められないため、少しの餌も無駄にはできない。 鼻でクンクン嗅ぎまわり、辺りに食べ残しが無いことを確認すると、少女らは次々に立ち上がった。 今度は便を落すための運動だ。
「ふっ、んっ、ふぅっ……んっ！」
お腹とお尻をくねらせ、まるでベリーダンスのように、お腹をベコベコ前後させる。 おっぱいを揺すり、背中を反らし、兎に角様々な方向に身体をくねらせる。 少女たちが踊る理由は、大腸というグネグネした管の中に食べ物を落しこむには、姿勢を大腸の形に合わせることが手っ取り早いためだ。 息を吸い込んでお腹を膨らませ、グネグネとみっともない腹踊りに興じる姿は、ただただ浅ましく無様といえる。 それでも、一刻も早くウンチを出すためには、少女らの行動こそ理に適っている。
「んっ、んんっ、ふぅんっ……！ う、ウン子６号！脱糞許可願います！」
やがてイキみはじめた少女の１人が挙手し、ウンチの生産完了を告げる。 ひなこが先ほど前餌を入れてあったオマルを、今度は少女の股下に置いた。 パァンッ、許可の印は少女のお尻に付いた真っ赤な手形だ。
「ふぅんっ……んんっ」
ブリブリ、ブリブリ……。
一刻も早く排泄するべく、少女は全力でイキみ、キバる。 けれど生産途中でもあり、そうそう素早くは脱糞できない。 直腸を通過した傍から排泄される大便は、固さは緩く、太さは細い。 まるで製麺機のようにゆるゆると繰り出される茶色い便塊が、ポトリ、ポトリ、途切れ途切れにオマルへ落ちる。 オマルについた電子天秤が『１キロ……１．５キロ……』と現在の排便量を掲示する。 やがて少女の排便は『初便、１８分後。 規定量到達時２５分後』と記録され、合否の判定が下るだろう。
「ウン子１９号！ 排便許可願いまぁす！」
「うっ、ウン子２号！ 排便許可お願いしますっ！」
最初の１名に引っ張られるように、あちこちで少女が排便体勢に入る。 現在経過時刻は２０分。 この調子であれば、きっと全員が『早便検査』に合格できることだろう。
少女たちの排泄地獄、まだまだ始まったばかりである。