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【その他 官能小説】

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「あの……お酌くらい、させて下さい」
僧は訝しげに眉根を寄せた。
「俺は僧だぞ」
「でも……飲むのでしょう?」
確信めいた瞳と言葉に、僧は笑みを浮かべたまま言った。
「罠の礼なら十分に返して貰った」
女は、驚いたように切れ長の目を丸くさせる。
「分かっていらしたのですか」
「分からないとでも思ったか?」
「……驚かないのですね」
「妖怪なんぞはざらにいる。お前が狐だと言うことくらい、驚くことではないさ」
僧は声を出して笑い、女の手を取った。赤く滲んだ布切れを外して、彼は頷く。
「大した傷ではない。外して傷口は乾かしておけ」
女――狐は切なげに僧を見やり、それから薄く笑みを浮かべた。
「ありがとう……ございます」
気にするな、とでも言った様子で僧は頷いた。
深くお辞儀をして踵を返す狐を、彼は呼びとめる。
振り返った彼女に、僧は酒瓶を見せて言う。
「酌は、どうなったんだ?」
目を輝かせて、狐は僧の元へ駆け寄った。

「……お手は、大丈夫ですか」
四杯目の杯を口元に運んだところで、言い出し難そうに、しかし狐は言った。
「こんなものは、酒を飲めば治る。百薬の長、と言うだろう」
「いやだわ、病ではないのですから」
既に酔っているのか、それともしらふで単に冗談を言ったのか。
そんな僧の言葉に狐は苦笑した。
「……お坊様なのに、お酒、飲むのですね」
「この通り俺は僧の格好だが、人間の姿をしているだろ。酒も飲むし肉も食うぞ。食われたくなかったら早く逃げるんだな」
「あら、どちらの意味で?」
狐が、真っ直ぐに僧の瞳を見つめる。
白い手を僧の袈裟の下に滑り込ませて、彼女は言った。
「お酒も飲むのでしたら、こちらも好むのでしょう?」
「人間には狐を抱く趣味はないがな」
誘うような狐の言葉に、僧は笑いながら冷たい一言を言い放った。

「………」
明らかに傷付いたような表情。狐は肩を落として項垂れる。
僧は、そんな彼女の細い顎を持ち上げて言った。
「狐の身体を、人間は抱かないだろう?」
そして、そのまま唇を重ねる。
「だが、狐とてお前も今は人間の女だ。俺は誘われて抱くことが出来ない臆病者じゃあない」
「あ……ッ」
軽い口付けの後、僧は唇を狐の耳にやる。
「人間の形の雄と交わるのは初めてだろう?」
「ん……はい」
「ならたっぷり可愛がってやる」
耳元で囁き、僧は優しくその肩を抱いた。狐も僧の背中に腕を回し、抱き締める。
僧は近くの酒瓶を手に取り、それを呷って酒を口に含んだ。
そして、唇を狐のそれに押し当てる。
「ん、む……!」
狐の口腔内に、生温かい酒が溢れた。
そこに僧は自分の舌をねじ入れる。舌は妖しく蠢き、狐の舌を捉える。
狐は喉を鳴らして酒を嚥下した。口の端から伝う酒と紅潮した頬とが艶かしい。
「は……ん、ふ……ッ」
ざらりとした舌同士がもつれ合い、絡み合う。長い口付けが終り、二人が離れた。
光惚とした表情で、狐が僧を見つめる。
「お坊様……」
「吉良(きら)と呼べ」
吉良は言って狐を押し倒す。舌を首筋に這わせながら、彼は問うた。
「名はあるのか?」
「…美津(みつ)と」
「お美津、か。人間のような名だ」
鼻で笑い、吉良は美津の着物を剥ぎ取った。白い肌が月明かりで一層の美しさを湛えていた。


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