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アダルトビデオの向こう側
【熟女/人妻 官能小説】

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1.自分との決別-2

 その事務所はK市の駅近く、オフィスビルの5階にあった。
 灰色のドアを開けて、厚子が香代を中に促した。タバコの匂いが充満していて、香代は思わず顔をしかめた。
 磨き上げられたクリーム色のリノリウムの床で足を滑らせそうになり、慌てて厚子の腕にしがみついた香代は、奥の部屋にそのまま連れて行かれた。

 窓際に向かい合ったソファとガラス板のセンターテーブルがあって、その上に書類が揃えて置いてあった。壁には作り付けの大きなキャビネットがあり、女性が下着姿や裸体ではしたない恰好をしている写真が背表紙を飾るアダルト・ビデオのDVDやブルーレイディスクが床から天井までぎっしりと詰め込まれていた。

「いらっしゃい。お待ちしてましたよ」
 香代の姿に気づいてソファから立ち上がったのはやせぎすで顔色の悪い、グレーのスーツ姿の男だった。
「始めまして。林です」
 彼は香代に握手を求めた。香代はそれに応えず深々とお辞儀をして、すがるような目で言った。「あの、主人のこと……」
「まあ、お掛け下さい、香代さん」

 林は懐から名刺を取り出し、香代に手渡して先にソファに腰を下ろした。
 香代はその『弁護士 林倫太郎』と書かれた名刺をしばらく見つめ、恐る恐る彼と向かい合ってソファに座った。
 香代をここまで連れてきた厚子は、香代がソファに落ち着いたことを確認すると、軽く香代に会釈をして、黙ったまま奥の部屋に姿を消した。
「早速ですが」
 林はそう言って、テーブルに乗せられた封筒から書類を取り出した。
「黒田さんからお聞きになっていらっしゃると思いますが、」
 そうして林は香代の前にその書類を置いた。
「ご主人の稔君が女に騙され、暴力団から慰謝料を請求されています。これがその証書」
 香代はその書類に目を落とした。内容を読んでも意味がよくわからなかった。一番下の署名欄に二つの名前が書かれ、一つは林のものだった。大きな印が押してある。
「僕が稔君のために交渉してかなり減額させました」
「そうですか……」
「始めは二千万とふっかけてきたので、僕が法律に基づいて算定し、この金額に落ち着いたのです」
「に、二千万……」
「暴力団の言いなりになってはいけません。世の中には法律というものがあります」
 林は背筋を伸ばした。
「そしてすでに組の方には返済が済んでいます」
「え?」香代は思わず顔を上げた。
「ここの黒田さんが立て替えて下さったのです」
「そ、そうですか……」
「だから、貴女の借金返済の相手は黒田さんということになります」
「でも、400万なんて大金、私払えません……」
「わかります。それにこんな話、息子さんにも稔君の親父さんにも話せませんよね。わかりますわかります」
 林は腕をこまぬいて不必要なほど何度もうなずいた。

「助けて下さい、林さん、どうしたらいいのか……」香代は頭を抱えた。
 林は待ってましたとばかりに身を乗り出した。「そこで提案なんですが」
 その時、事務所の奥のドアが開き、腹の出た恰幅のいい大きな男が姿を見せた。
「おお、来てらっしゃったんだね、香代さん」
 思わず顔を上げた香代に近づき、にやにやと笑いながらその姿を上から下まで眺め回して、その大男は言った。
「我々が助けてあげますよ、香代さん。なあに、何も心配することはない」
 辺りの空気を揺るがすような野太い声でそう一気にまくし立てた男は、ソファの後ろにあるデスクに向かって椅子に腰掛け、おもむろにタバコを取り出して火をつけた。
 肩をすくめ、困ったような顔で林が言った。「ここの社長です。黒田太一さんといいます」
「黒田……さん?」
「ご夫婦で経営されているんですよ」
「そうでしたか……」香代は一度目を伏せ、すぐに顔を上げた。「あの、主人の慰謝料を肩代わりして下さってありがとうございます」
「なあに、たいしたことじゃない」
 黒田は言ってタバコを灰皿に押しつけた。


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