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愛すべき彼女と肉塊
【学園物 官能小説】

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Runa:「羞恥心の死神」-1

クリスマスを前にして、2学期は終わった。

雪は降らないけれど、下校中の街並みは雪の結晶やクリスマスツリーで幸せなムードに溢れかえっていた。

脚元が冷えるこの時期になると私は、丈の長いダッフルコートを着て寒さを凌ぐ。

終業式しかない学校は、午後一番に終わる。

私だけしか知らなかった場所。

どうしようもない虚しさと切なさを解放できる私だけの秘密の場所で待つ、一人の男の子の元へと向かっていた。

枯葉が道に敷き詰められていて、その上を歩く度に葉が木端微塵になっていく音だけが耳に届く。

坂道を登っていくと、勇樹がベンチに腰かけているのが見える。

私の枯葉を踏みつぶす音が勇樹にも聞こえたのか、私の方に顔を向けて優しく微笑む。

「やっほー。」

勇樹のあいさつに私は手を挙げて答える。

「ごめんね、待たせて。」

「いいよ、二人してここに行ったら変なヤツがついてきたりするかもしれないからね。」

勇樹の言わんとしていることは理解できた。

私たちの年頃の男女は、とにかく恋愛話に敏感で一緒にいるだけで付き合ってる、なんて言われることは日常茶飯事だった。

「私達の場所、突き止められたらマズイもんね〜。」

無意識に私はそう言っていた。

本来私が自分の体のどうしようもない疼きや感情を一人で慰めるだけの場所。

「私…達の場所ねぇ。」

その単語を反芻し、勇樹は満足そうな笑みを浮かべる。

この数か月で、この場所には勇樹が介在するようになっていた。

今でもたまに、この場所に一人で黄昏に来る時でもどこか勇樹の匂いや存在を感じてしまう。

元からこの場所はずっと好きだった場所。

季節が変化と共にこの場所も微妙に変わっていく。

そんなこの場所が好きだった。

勇樹も少なからずこの場所が気に入っている様子だった。

私のようにこの場所を勇樹が好きになっていることが、自分のことのように嬉しく感じる。

「瑠奈ちゃん、公園集合って言うと絶対来てくれるもんね〜。」

「そうね、私この場所が好きだし。」

そう言うと勇樹はふ〜んと意味深長に息を吐く。

「俺、瑠奈ちゃん公園に呼び出すの好きなんだよね。なんか…俺にエッチなことされるの楽しみに来ているのかなぁ〜とか思っちゃってさ。」

それは、間違ってはいなかった。

私が好きな場所を誰かと共有できるのは、嬉しいって思う事だし。

勇樹からの公園の呼び出しが私にそういういやらしいことをするつもりなのも、数か月前から承知した上で来ていた。

数か月前と違うところは、受動的なのか、能動的なのかどうかというところだけだった。

「勇樹くんは、きっと私が勇樹くんに触られたいって思っているんでしょう?」

「え…違うの?」

男の子はというか、勇樹は私をちょっと自分の都合の良いように解釈してるところがあると思っていたが、それはどうやら間違っていなかったようだ。

「触られたい…っていうのと、触られに来てるって…違う…から、ね?」

「…」

勇樹は顎に手を当ててしばらく私の言葉の意味を考えているようだった。

そして、何かを思いついたのか顔を私に向けると、飛びつくように私に抱きついた。

「瑠奈ちゃんっ!」

「ちょっとっ…!どうしたの?」

勇樹が私に抱きついている姿は、高校生ではなくて小さな男の子のように感じる時が多い。

「色々聞いていい?」

勇樹は唇が触れるか触れないかのギリギリの所まで顔を近づけて私を真っ直ぐ見つめる。

「なぁに…?」

その勢いに押されて思わず声が小さくなる。

たかがキスでも勇樹は時々こうやって私を焦らすような真似をする。

冬の冷たい空気で少しだけ冷えている体は、勇樹の吐く息と微かな体温でも敏感に感じ取ってしまい、心臓の鼓動が速くなる。

「質問1。触られに来てるって言ってたけど…それは、俺にいやらしいことされるって確信してたにも関わらず、この場所の呼び出しに来てくれてたってこと?」

勇樹は真剣な表情で私を見透かすような視線を送る。

「……そうね。」

喉につっかえそうな言葉を振り絞って私は答える。

私が答えると、勇樹は乾いた唇を私の唇に重ねる。

「そっか。質問2。触られたいって思う時って、どんな時?で、それはどのくらいの頻度でそう思うの?」

「はぁ…?しかも質問2つあるし…。」

勇樹は「気にしない」と言いながら、私を逃がしてはくれない。

質問2が私に問いかけられて、私は初めて自分の失言を思い知る。

最近の私は、勇樹の言う事に素直に答えすぎてしまう。

勇樹にはもう、取り返しに付かないほど醜態を晒してしまったとはいえ、私が保ちたい自尊心もまだわずかにはあった。

言わなくてもいいことを言ってしまったがために、この質問からどんどん私の心が暴かれていくということに気付いてしまう。

そう、これは私の羞恥心を引き出す尋問だった。

でも今更偽ることも馬鹿馬鹿しい。

それに、この質問のを作り出したのは紛れもない馬鹿な私自身であることに、頭の中で悶絶する。

「それは…人肌恋しかったり…そういう気分になったりする時があるからだよ…。頻度は…ここイチニカゲッ…」

まるで催眠術に抗うかのように私の声はどんどん小さくなっていく。

でも、勇樹はそんな小さな声の一字一句を消してもらしたりはしない。

それはまるで、羞恥心の死神のように私から出た言葉を丁寧に刈り取っていくのだ。



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