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ニセお姫様
【初恋 恋愛小説】

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ニセお姫様-3

青になったコトを確認して横断歩道を渡る。急ブレーキの音がする。迫ってくるバイク。「危ないっっ」突き飛ばされる感触。ガッシャーンと何かが割れた。目の前には横転したバイクと、二人の男が倒れていた。その一人は
「飛鳥ぁーッッ!!」
絶叫にも似た声を出して、アタシは飛鳥に駆け寄った。
「…ってぇ〜。大丈夫、ちょっと擦り剥いただけ。それよか、優ちゃんは!?怪我してない!?」
こんな時でも飛鳥は…。
「…ん。全然平気。飛鳥のおかげだよ。ありがと…」「良かったぁ〜…」
飛鳥はアタシをそっと、だけど強く抱き締めた。その時、アタシはまた突き飛ばされた。今度は、バイクの運転手から。
「テンメッ、俺のバイクどぉしてくれんだよっ」
運転手はヘルメットを投げ捨て飛鳥の胸ぐらを掴む。アレ、あの野郎、どっかで…ぁあ!!三年前、喧嘩売ってきたくせに逃げ出した野郎だっ!!
「まぢフザケんなよ!?コラァ!!」
怒りメーターMAX。飛鳥は喧嘩が嫌い。自分は人を傷つけたくないから、って前に言ってた。だから、今回も相手を冷たく睨んでいるだけだ。飛鳥が出来ないなら…アタシがやるっきゃねぇぢゃん!!
「すかしてじゃねぇぞ、コラァ!!」
野郎の拳が飛鳥に向かって飛ぶ。だけど、痛かったのはアタシの掌の方だ。
「ソレはこっちのセリフだ、ボケェ」
「何だ、このアマァ!!」
アタシは立ち上がって、こめかみ辺りに一発くらわした。一瞬フラついた野郎はペタんと座り込んで驚いた様子で、アタシを見上げた。
「何だ、テメェ?!」
声が裏返っている。
「…アタシ??」
パンプスのヒールで野郎のキンタ「ピーッ」を踏む。「ヒェッ」と情けない声を出して涙目になっている野郎に顔をぐっと近付け、
「ブリっ子ですが何か」
と呟いた。
「お前まさか…愛川優磨…」
「そっ、三年前、あんたがビビッて逃げ出した愛川優磨だ!!」
泣いてブッサイクになっている野郎を、アタシは腰に手を当てて見下ろした。
「何か言うコトあんだろぉ!!」
「す、すいません!!」
「アタシじゃねぇ!!飛鳥にだ!!」
足を退けると野郎は飛鳥に「ごめんなさいっ」と土下座した。
「もう信号無視とかすんじゃねえぞ。行け」
野郎は、壊れたバイクを引っ張って謝りながら帰って行った。
やってしまった。後ろから「優…」という声がした。振り返ると、飛鳥が悲しそうな顔をして立ってた。
「着いてきて…」
飛鳥はそう言うとどこかに向かって歩き出し、アタシは俯きながら着いて行った。

着いた場所は公園だった。何か言わなきゃと思い「…ぁの」と言った瞬間、「ゴメンね…」と飛鳥が言った。
「…え?」
「カッチョ悪いトコ見せちゃった…。守るどころか守られちゃったし…」
飛鳥は寂しそうに笑った。どうして…?どうして怒らないの…?何で謝るの?
「飛鳥は謝らなくていいよっ。アタシ、ずっと飛鳥を騙してた…。飛鳥は忘れてっかもしんないけど、三年前の万引きしてた女ってアタシなん…」
「あの金パの子でしょ?あの子優ちゃんでしょ♪」
アタシの言葉は、飛鳥の信じられない言葉で遮られた。
「それに名前が『優磨』ってコトも…。俺が二年の時、アド聞いてくれたよね??そん時、あの子だぁ、って…」
じゃぁ、飛鳥は最初から知ってたの…。
「見た目とか話し方とか別人だったけど、俺見たんだ。学校で素の優のコト…」「優は気付いてないみたいだけど…。髪は巻いたりしないで、ポニーテールしてた。『優磨』って呼ばれて、楽しそうに大笑いしてた…」
「逆に悲しかったよ。何で性格を作ってるんだろって。でも、そん時にはもう好きだったから、本当の優を見せてくれるまで待とうと思った…。その時は、優が心から俺を信頼している時だから」
気付くと泣いていた。こんなに大きな人がいるんだ。優しくて、温かい、綺麗な人が。
飛鳥はそっとアタシの頭に手を乗せて撫でてくれた。
「ありがとう。信頼してくれて…」
アタシは飛鳥に抱き付いて、大声で泣いた。飛鳥は、「よしよし」って言いながら抱き締め返してくれた。ありがとう、飛鳥。こんなアタシを受け入れてくれて…本当にありがとう。

「アタシのコト、まだ好き??」
「もちろん♪」
「あの時、女の子らしくした方いいっつってたじゃん」
「あれは、ブリっ子になれじゃなくて、女の子は守られてなって意味。守ってあげたいって思ったからっ☆☆」
「…ばかぁ」

手を繋いで歩くアタシたちを柔らかな朱色が包んでいた。


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