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ニセお姫様
【初恋 恋愛小説】

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ニセお姫様-2

そんなある日、アタシは喧嘩に負けた。いや、負けたというより、タイマンの相手が来なかったのだ!!相手から喧嘩売ってきたくせに、時間になっても待ち合わせ場所に来なかった。いわゆる不戦勝。…アタシには、ソレが許せなかったんだよぉーッ!!!!拳と拳も交わらせず勝敗決めちゃうのが許せんッッ。だから、アタシはアタシに負けた。今考えると、随分アホらしい理由だけど、マヂで悔しかった。ムカついた。根性焼きを入れたけど、スッキリしないし…。このムシャクシャどうしちゃろうかと考えていると、最近発売したHIP HOPのCDのコトを思い出した。それからのアタシは、今までにないくらいテキパキしていた。CDショップに行くと、アタシは真直ぐHIP HOPコーナーへ足を運ぶ。くそ…。目当てのCDには防犯センサーが付いている。ゲッ、バレんじゃん。目を走らせると同じアーティストの昔のアルバムを見つけた。よっしゃ、センサー付いてねぇ!!しめた。すぐに、アタシは周りを確認する。いない。防犯カメラは…死角じゃ
ん。アタシはCDに手を掛ける。ドキドキする。このスリル、最高だわ。CDを持ち上げる。辺りを見渡しつつ、ゆっくりと少し開いたカバンに近付けた。そう、見渡してたはずなのに…。『!!??』ガシッと腕を捕まれ、不意を付かれたアタシはCDを落とした。アタシの腕を掴んだ奴は、床に落ちる前にCDをキャッチし、元あった場所に戻した。そして、アタシの腕を掴んだまま出口に向かって歩きだした。強く掴まれていたので、アタシはソイツに着いて行くしかなかった。人通りの無い小道にアタシを連れていくと、掴んでいた力が少し揺るまった。
「…離せよッッ!!」
「ヤダよーん」
そうして振り返った男子高校生が飛鳥、橘 飛鳥だった。

飛鳥はアタシにさよならを言うと、さっさと歩き出したが、忘れ物をしたかのようにタカタカと戻ってきた。飛鳥は自分が掴んでいた腕をまぢまぢと眺め、切なげに眉をしかめた。
「…ぁ。俺止めるのに必死で…。こんなに赤くなるまで掴んでたなんて…ホントゴメンね。痛かったでしょ??」
覗き込んだ飛鳥の顔は今にも泣きそうだった。アタシの為に怒ってくれる人がいる…。アタシを心から心配してくれた人がいる…。胸がいっぱいだった。体が張り裂けそうだった。鼻の奥が痛くて、視界がぼやけた。その後は覚えてない。ただ一つ覚えてたのは、沈む夕日をバックに朱色の世界に立って、優しい笑顔で手を振る姿だった。
次の日からアタシは白羽高校を受けるために猛勉強をした。昨日の男子高校生の制服は白羽高校のものだった。担任にも親にも、目標ができたと報告した。みんな、自分のコトのように喜んでくれて嬉しかった。見捨てられてると思ってたから…。
頑張ったかいあって、無事白羽高校合格!!そして入学と同時にあの人を探してアドレスget!!『女の子らしく』メールをして、一年間の努力の末お付き合いしてもらえるコトに。それからもう一年間順調に過ごして、アタシは高三に、飛鳥は調理師専門学校へ進んだ。
さて、ここで大事なコト。付き合って二年目になるのに、飛鳥は本当のアタシを知らない。名前も『優』だと信じてる。あの時の万引き少女がアタシだなんて夢にも思わないだろう。この秘密はアタシだけではバレるのも時間の問題。バレずにやってきたのは周りの人たちの協力があるからだ。
例えばデート中。中学の頃からの友達は話し掛けてこない。あまりにも見た目が違い過ぎるから、怪しまれないようにと言ってくれた。逆に明らかに姫な友達はガンガン来る。無駄に抱き付きキャッキャッしてる。そして、myfamily。飛鳥が家に居る間はアタシを『優』と呼ぶ。ありがとう、心の支えたち。
飛鳥を騙してるのは辛いけど、言ったら軽蔑されるんじゃないかと恐くて仕方ない。飛鳥だけはどうしても無くしたくない。ゴメンね、飛鳥…。きっと明日も、何もなく無事に過ぎてくんだろうな。今まで通り飛鳥を騙し続けるんだ…。


飛鳥と手を繋いで歩く。やっぱり今日も、心の友たちのおかげでバレずにすんだので、アタシはありがとうメールを八人に送ったところだった。
「ぢゃぁ、そろそろ帰ろっか。優ちゃん、送ってくねっ」
「うーんっ、あぁりぃがぁとッ♪」
飛鳥の手はあったかくて大きくて、すごく心地いい。そして、飛鳥はいつでもアタシを気に掛けてくれる。一個上だけどきゅんとさせられるコトもある。なのに、頼れるし信頼できる。本当に大好き。飛鳥の笑顔と飛鳥の隣は絶対に失いたくない。
…なのに…なのにッッ!!


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