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『6月9日』
【悲恋 恋愛小説】

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『6月9日』-2

その日の夜、俺は悠美の部屋にいた。
「…なおくん?」
「悠美、目ぇ覚めたか。」
「なおくん、ずっとそばにいてくれたの?」
「いっしょにいるって約束したろ?」
「…聞いた?私のこと。」
…どう答えたらいいのかわからなかった。でもその間は、肯定してるのと同じことで。
「…聞いたんだね。ごめんね、できもしないのに…ずっと、いっしょにいてだなんて、ごめんね…。」
悠美が俺に泣きながらすがりついて言った。
悠美が泣きやむまで俺は黙って抱き締め続けた。この日俺たちは初めてキスをした。


俺が退院して一週間たった。退院してからも俺は毎日悠美に会いに行っていた。その日もいつも通りに行くはずだった、『悠美が危ない』という連絡があるまでは。

「悠美!」
俺が病室に飛込むと、悠美の両親と担当医がすでに集まっていた。ベッドに近づいて優しく呼び掛ける。
「悠美?聞こえる?俺だよ、直人だ。」
悠美が目を開いて消え入りそうな声で囁いた。
「なおくん…あいたかった…」
「うん…俺も。」
「なおくん…ごめんね…ずっと…いっしょにって…やくそく…したのに…」
「なにいってんだよ…ッ!これからも…ずっといっしょだ。」
くそっ、泣くな俺!涙を止めろよ!もう時間がない。俺は精一杯の笑顔を悠美に向けて言った。
「悠美、愛してる…」
悠美はとびきりの笑顔で応えてくれた。…最後の言葉とともに。
「なお…く…ん…あいし…てる…さよ…な…ら…」
「…悠美?おい、悠美、何寝てんだよ、返事しろよ、なぁ悠美…悠美ィィィ!!」


あれからどれだけの時間がたっただろう。病院の廊下で呆然とする俺に、悠美のお母さんが1通の手紙を渡してくれた。差出人は野坂悠美。俺は封を開けた。

『私の大切な人、なおくんへ

これを読んでいるということは、私はもう、なおくんのそばにはいないんだね。なんか、自分で書いてて変な感じだよ。

ねぇなおくん、私はなおくんに出会えて、なおくんといっぱいお話できて、なおくんとケンカできて、なおくんのことを好きになれて、そしてなおくんがたった一瞬でも私を愛してくれて、本当に幸せでした。

私は先に逝ってしまうけど、今度はなおくんが幸せになれるように天国でお祈りしています。

だから…』

俺は一度そこで読むのをやめる。よく見ると、紙にはいくつもの涙の跡がある。続きに目をやると、何度も消しては書いてを繰り返したようにくしゃくしゃになったところに、こうつづられていた。

『私のことはきれいさっぱり忘れてください。

愛しています、心から。本当にありがとう。さようなら。
野坂悠美』

「バカだな…こんなに書き直したら…何て書きたかったか分かっちゃうよ…ッ!」
大丈夫だよ、悠美。俺は忘れない。…ずっといっしょだ。
そう悠美に誓った、6月9日のことだった。


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