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『6月9日』
【悲恋 恋愛小説】

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『6月9日』-1

俺は病院が嫌いだ。臭いとか空気とか、まぁ理由はいろいろだ。
「こりゃしばらく入院だねぇ。」
だが不本意ながら、俺は今病院にいる。しかも入院勧告までされて。
「…マジですか?」
「マジですねぇ。」
…どうやら拒否権はないようだ。

で、結局入院することになった俺、幸村直人は病院の中庭のベンチに座っていた。しっかし…
「ひまだなぁ。」
そうさっきから何度もつぶやいている。病院ではできることにも制限がかかってくる。それも病院の嫌いな原因のひとつかもしれない。なんにせよ
「ひまだなぁ。」
「ひまだねぇ。」
「うん、ひまだ…ってええっ!?」
独り言に返事が返ってきたことに驚いて、声のした方を振り向くと、そこには笑顔の女の子が立っていた。不自然なほど透き通った白い肌が印象的な、とてもはかなげな女の子だった。
「驚かせちゃった?ごめんなさい。」
その女の子はそう謝るとこう続けた。
「ねぇ、そんなにひまならあたしとお話しよう?」
「あぁ、構わないよ。」
願ってもいない話し相手だ。俺はその申し出を快諾した。
「あたし、野坂悠美。3号棟の204号室に入院してるんだけど、あなたは?」
「俺は幸村直人。本棟の202号室に入院してる。」
それからしばらく話をして俺たちは別れた。また会う約束をして。悠美と出会った日、5月3日のことだった。


それから中庭で悠美と話すのが日課になった。俺は彼女を悠美と呼び、彼女は俺をなおくんと呼んだ。話すたびにクルクルといろんな表情を見せる悠美に、俺がひかれていくのにそう時間はかからなかった。

「ずっといっしょにいたいね。」
俺は悠美の手を握って言った。
「ずっといっしょにいてくれる?」
「俺はずっといっしょにいたい。」
「…うれしい…。」
はにかんでそう応えた悠美があまりに愛しくて、俺は悠美を抱き締めた。悠美の体は折れてしまいそうなほど華奢で、俺は大事に悠美を抱き締めた。5月14日のことだった。


それからも俺たちは中庭で毎日話をした。だんだん悠美の顔色が悪くなっていっている気がして、大丈夫なのか尋ねたけど、悠美はただ一言大丈夫としか言わなかった。逆にその態度が俺にいいしれぬ不安を抱かせた。そして、その不安は現実になってしまった。中庭で悠美が倒れたのだ。悠美が倒れた日、悠美のお母さんと初めてあった。
「あなたが、直人くんね?」
「はい、あの、悠美さんは…?」
「大丈夫、今は落ち着いて眠っているわ。」
その言葉に安心して…抑えていたものが一気に溢れだした。
「俺がいけないんです、悠美に無理させて、俺がッ!」
そう叫ぶ俺に、彼女は語り始めた。
「あの子はそう思ってないわ。もちろん私もそう思ってない。だから自分を攻めないで。…あなたにはつらい話になるかもしれないけど、聞いてちょうだい。悠美はね、もうそう長くは生きられないの。だから悠美といることであなたが苦しむのなら、もう悠美と会うのはよしなさい。」
暖かい、包容力のある笑顔でそう悠美のお母さんは語った。でも…
「…いっしょにいるって約束したから…」
俺が決意をした日、5月24日だった。


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