偽りの欲情-7
「あのね。私、明日からお仕事に出るからね。」
ペニスの先端を割って、そこに舌を挿し込む。
フィットネスに行かなくなってからもこの人の肉体は少しの衰えも見せなかった。
私は不安だらけで、疲れるまでセックスでもしなきゃ眠る事さえできなかったのに確実に太った・・・
「ねえ、寂しい？」
「しかたないよね。僕も早く仕事を探さなきゃ・・・」
「いいのよ。私が食べさせてあげるから・・・大丈夫。」
取り繕いにこんな事を言ってみたけど、この肉体がこんなに愛おしいと感じた事は今まであっただろうか。
あれから一か月と８日が過ぎ去った。
何度も何度もセックスして、さり気ない会話を積み重ねて・・・
この人が勝手に記憶を取り戻して帰ってしまえばどんなに楽になるかと思ったけど、今はそれが怖いような気がする。
跨って膣孔にそのまま、ずぶりと挿入する。
自分の体の位置とこの人の体の位置を体で熟知してるのが切ないほどくやしい。
その切なさと体の安心感が別々の感情で同時にため息を漏らす。
「んっ・・んっ・・このひっかかるとこ・・気持ちいい・・・」
浅く突き入れると膣孔の僅かな湾曲にペニスの先端がひっかかる。
こつりこつりと絞り込みながら前に体重をかけると握りあった手のひらが揺れる。
奥深くまで貫いてその手を両の乳房に押し付ける。
ゆったりと丸い形をなどりながら、指先は尖った乳首をその柔らかさの中に沈ませた。
「赤ちゃん・・作っちゃおうか？」
「そうだよね・・・でも・・・」
困った顔が見てみたかった。夫婦なのに彼自身がなぜ子供がいないのかさえ、知らないのだ。
初日から遅刻してしまった。
セックスして。食事して。
お風呂も入らずまたセックスして・・・目覚ましを止めてほんの一瞬、目を閉じたらこんな時間にタイムスリップした。
「申し訳ありませんっ！」
「いいのよ。緊張しちゃったのかしら？」
なぜか私は旅館で働く。
某国のスパイのように潜入して、それとなく内部の様子を伺う。
主が失踪した家にはとても思えなかった。
そもそも、旅館というものは主人抜きで切り盛りするものだろうか？
テレビで見る老舗旅館といえば、必ず女将が代表で出てきていたような気がする。
その前にやはり、どうしても気になる事を片づけておかなきゃと思った。
私の見る限りではあるけれど、克也の家族は彼の失踪になんの関心もないのだろうか？
マスメディアを見ても老舗旅館の主人が行方不明になったという事件は見あたらなかった。
事件とまでは行かなくても捜索願ぐらいは出ているはずだろう。
これはやはり、家族に事情を告げなくてはならないだろう。
いろいろと考えて、また都合のいい嘘を思い巡らせてはみたものの、記憶を失くして見知らぬ女のところに数日間もいたならばその関係は隠せない。
それだから、今の今まで言い出せずに数日、数週間を過ごしてきたのに違いない。
本当に行きがかり上とはいえ、男と暮らすと女はこんなに保守的になってしまうのだろうか？