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偽りの欲情
【OL/お姉さん 官能小説】

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偽りの欲情-6

住民票をあらかじめ二枚用意しておいて、帰りに銀行に立ち寄り彼の口座を新設した。
彼の持つ預金口座など知る由もないし、保険金を私の口座に振り込んでもらうにはまたひと悶着あるだろう。
これで一安心。二十日を過ぎたら私も勤めに戻れると思う。
自分がどこで生まれて、どこに住んでいたか憶えていない。ともすれば、ついさっきの事さえ忘れてしまう事もある。
だけど、夕方帰宅したら私の事さえ忘れているなんて事はまさかないだろう。


その前にやはり、どうしても気になる事を片づけておかなきゃと思った。
私の見る限りではあるけれど、克也の家族は彼の失踪になんの関心もないのだろうか?
マスメディアを見ても老舗旅館の主人が行方不明になったという事件は見あたらなかった。
事件とまでは行かなくても捜索願ぐらいは出ているはずだろう。

これはやはり、家族に事情を告げなくてはならないだろう。
いろいろとまた、都合のいい嘘を考えてはみたものの、記憶を失くして見知らぬ女のところに数日間もいたならばその関係は隠せない。
それだから、今まで言い出せずに数日、数週間を過ごしていたのかも知れない。
本当に行きがかり上とはいえ、男と暮らすと女はこんなに保守的になってしまうのだろうか?

私は思いきって、克也の言っていた旅館を訪ねてみた。
もちろん、本人は全く憶えてもいないがネットで調べたらすぐに分かった。
それほど広くはないようだけど、足が竦むほど趣のある立派な建て構えだった。

「ごめんください。あの・・・女将さんはいらっしゃいますか?」

紫色の和装をしたそら豆みたいな顔つきの女性はしばらくお待ちくださいと奥に下がって行った。
あぁ、これがあの人の奥様なのか・・・
それからすぐに落ち着いた感じの綺麗な女が姿を現した。

言い出せない・・・オタクのご主人を預かってるなんて誘拐犯みたいな事・・・言い出せない。

すっかり気迫に呑まれてしまった私は表看板のなんとか様ご一同なんて書いてある横に「仲居さん募集」と書いてあった貼り紙を思い出した。

「あの・・・表の募集広告をみて参りました者ですが・・・」

何で私はこうなってしまうんだろう!?
この頃ではすっかり取り繕いに慣れてしまったのか思いつきでものを言ってしまう。

なぜかホッとしてしまった。
保険金の事だけど、火曜日には振り込まれると連絡があった。
私はひとつずつでも身を軽くしようと思ったのか、その日のうちに会社を辞めてしまった。
兄を連れて、郷里に戻ります・・・私の郷里っていったいどこなんだ?

ともかく、これでギリギリ食べるには困らなくなった。
それにしてもおかしいのは主人が失跡してから何の変化もない・・・
敵を知り、己を知ればナントカカントカ・・・孫子だったっけ?
とりあえず、あの人の家に潜り込んで機会を見計らおうと思った。

しばらくはここからお給料ももらえるから、生活の事は心配なくなったのだ。


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