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是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

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是奈でゲンキッ!X 『ミステイクス リンク』-7

 一方、嘉幸の指導を受けながら、是奈は是奈で。
「田原君ってちょっと怖い感じも有ったけど、こんなに他人思いの良い人だったんだ。それにいろんな事知ってるみたいで、すごく大人っぽいしぃ。……それに比べると……あたしって子供だなぁ」
 などと、そんな事を考えつつ。一生懸命コーチしてくれる嘉幸の言葉に、首を縦に振りながら、真剣に聞き入ったりもする。
 どうやら嘉幸にしてみれば、そんな是奈へのレクチャーにしても、以前テレビゲームでやったことのある『恋愛シミュレーションゲーム』からの受け売りだったらしいのだが。
「兎に角、もう一度やってみよう。いいかい落ち着いて、ゆっくりと発声するのがコツだよ」
 とかなんとか、是奈への指導にも熱が入り、すっかりはまり込んでいるらしい。
 然(しか)るに言われて、是奈もその気に成ったのか、何やら生唾をゴクリッと飲み込んで仕切り直すと。
「すっ好きです!!」
 さっきにも増して、裏返った声を、人影の無くなった公園に響き渡らせていた。
 そんな彼女の叫び声を振り切って、嘉幸は又しても立ち上がると、またまた是奈の肩を叩きながら。
「朝霞さん…… 少し落ち着こう」
 いたって冷静だったりする。


 是奈にしてみれば、これが精一杯だったのかもしれない。なにせずっと片思いで憧れていた張本人が、今こうして目の前に居て、手取り足取り(そんな大袈裟なものじゃないが)、いろいろと教えてくれている。当然緊張もするだろう。そしてなによりも、よしんば明日を待たずとも、これが本番でも良いとすら思っていた。
 だが嘉幸にしてみれば、これは単なる恋愛告白シミュレーションに過ぎないのかもしれない。是奈が必死の思いで、気持ちを打ち明けようとしている相手が、よもや自分自身であるなどと、これっぽっちも思っていなかった。
「さあさあ、明日の本番でしくじらないためにも練習練習っ! じゃあ最初からやってみるよ! シーン1、テイク3、スタート!!」
 人事だと思い、そんな事を言いながら、やたら乗り乗りだったりもする。
 そんな訳で是奈、勇気をだして三度目のトライ!
「好きでごわーーす!」
「 ”ブーっ” NG!」
 …………!



 明けて翌、月曜日の放課後。


 是奈は重たい足取りを引きずるようにして、体育館脇の花壇近くに有る、ベンチに座っている男子生徒へと、一歩一歩、大地を踏みしめるかの様にして、近づいて行った。
 どうやらその手には昨日、孤軍奮闘(こぐんふんとう)の末ようやく完成を見た、ハート型チョコレートの入った箱が握られている。
 緊張はしていない…… と言うと嘘になるだろう。しかしながら、昨日の嘉幸との特訓のお陰もあってか、さほど身体が硬くならないのも、事実だった。
 それでも、小箱を握り締めるその手は ”プルプル”と震えもしていた。
 是奈はベンチに腰を下ろし、俯いて携帯電話をコチョコチョ操作している彼の目前に立つと、その彼に向かってチョコレートの入った箱を差し出しながら、告げた。
「好きです!」
 

 突然、目の前に現れた女生徒にそんな事を言われて、嘉幸は少し驚きもしたが。
 直ぐに「フフンッ」と、鼻で笑うと。
「やっぱ…… 駄目だったようだね」
 そう言いながら徐に立ち上がって、何やら小さな箱を差し出し、深々とお辞儀をしている是奈の肩を軽く ”ポンポン”と、2回ほど叩くのだった。
 是奈は真っ赤になっていた顔を上げると、嘉幸の顔を見上げて「へっ!」と、間の抜けた声を発っしたりする。
 嘉幸は是奈に見詰められながら、ばつが悪そうに鼻頭(はながしら)を掻くと。
「振られちゃったようだね……」
 なんて、言葉を漏らしていた。
「えっ! あのっ! そうじゃなくて……田原君……あたしはその!」
 是奈は必死になって、自分が告白したかったのは田原君、貴方なんだと、何とか彼の誤解を解くべく真実を伝えようとするが。


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