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珍客商売〜堕ちた女武芸者〜
【歴史物 官能小説】

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誘拐された椿-4

「お小夜…お小夜ぉぉぉっ!!」
 飾り職人の父・友蔵は号泣しながら棺桶に取りすがる。
 周囲がその身体を引き剥がすと、今度は股引を下ろして己の陰茎をしごき始めた。
 愛娘の遺骸を見て、とうとう精神に変調をきたしたらしい。
 理性が崩壊して獣のようになり、無残絵(江戸時代〜明治にかけて描かれた浮世絵の一種で、芝居中の殺しの現場を描いたもの)のように凄惨な痴態に激しく興奮してきたのだ。
「うわっ! 何だこいつ…?!」
 しゅっ! しゅっ! しゅっ!
 あまりのことに岡っ引きも同心も呆気にとられている。
「お、お、お小夜ぉぉぉっ!!」
 びゅっ!! びゅっ!!
 友蔵の絶叫と共に白い悲しみと欲望が入り混じったものが迸り、蒼白となったお小夜の顔を汚した。
 悲しみのあまり狂気に駆られた男は、実の娘で射精したのである。
「お小夜…お小夜ぉ…」
 友蔵は萎びた陰茎をしまおうともせず、そのまま地面に泣き崩れた。
 この惨状の前には、誰もかけてやる慰めの言葉などなかった。

(酷い…!! 人間のやることじゃない…!!)
 お京は胸の奥が怒りで煮えくり返るような気分だった。
 しかし、先日の股座を刺し貫かれて死んだ女隠密とこの殺しは、女を物扱いした残虐な手口がよく似ているではないか。
(こいつは臭い…)
 と、お京は確信した。
「…ちっ。娘を借金のカタに取られて以来、酒浸りでとうとう気違いになっちまったか」
 中の一人が苦々しい顔でそう吐き捨てると、番屋を出て行った。
 その男は肩をいからせた猪首(いくび)で、切れ長のつり目、下顎が鋭く大きく反っている。おそらく受け口なのであろう。どこか酷薄で不機嫌そうな顔だ。
 いかにもたかりや強請をやっていそうな、典型的な岡っ引きである。
 お京は男を慌てて追いかける。豆岩もそれを追った。
「親分、親分! お待ちなすって!」
「んぁ?! 何だ、てめぇは」
「さっきもご挨拶した、四谷のかんざしお京って者です。親分と同じくお上の十手を預かる身でさ」
「そのお前が、この万七親分に何の用だ?」
「あんな胸糞悪い殺しを見せつけられちゃ、誰だって気が滅入りまさぁ。厄落しにそこいらで一杯引っ掛けていきやせんか? あたしが奢らせていただきます」
「ふぅん…」
 万七はお京の顔や胸を好色そうな視線で見つめると、ぼそりと言った。
「ついてきな。美味い酒を飲ませる店がある」

 目黒の外れにある一杯飲み屋で、万七とお京と豆岩は酒を酌み交わした。
「ひゃあ、美味ぇ! ただ酒の味は格別だぜ」
 高い上酒をあおって万七は嬉しそうに言った。
「それで…あの殺されたお小夜って娘は何処で見つかったんで…?」
「目黒川にかかった小さな橋でな。その下に棺桶ごと転がしてあったそうだ」
「あの娘、色白で目鼻立ちが整ってて、生きていた頃は周りの男がほっとかなかったでやんしょうね。どっかの男との色恋沙汰に巻き込まれ、刃傷沙汰におよんだ…って線はねぇんですかい?」
「ふん。お前、岡っ引きのくせに勘が悪いな。ありゃこの界隈じゃ『長屋小町』と呼ばれて評判だったんだが、身持ちの固い孝行娘でな。言い寄る男は片っ端からはねつけてた」
「じゃあどっかの色キチの浪人にでもさらわれたんですかね?」
「いや、親父の友蔵が酒に溺れて、賭場で借金をこさえてくるようになってな。仕方なしにあの娘は身を売ったんだよ。つい数日前のことだ」
「それが一体なぜあんな所に…」
「さぁな! 知らねぇ方がいいってこともあるさ。ここ数年、この辺りじゃ娘の変死体が多いんだ。細かく探りを入れると必ず奉行所から横槍が入る」
「……………」
 哀れなお小夜と女隠密の死は何か関係があるに違いない。お京はそれを聞いてますますその確信を強くした。
「そんなことよりもお京。お前、よく見りゃ可愛い顔してんな。ちっと年増だが悪くないぜ。もっとねんごろになろうぜ…」
 酔って好色になった万七はお京の懐の中に手を入れてきた。晒しの上から胸を揉みしだく。両脚の間にも無理やり足が割り入れられた。
 さらに万七は差し込んだ膝を股座に押し当てて、ぶるぶると震わせ始めた。圧迫と振動によって感じさせようというのである。
 乳房と股間に走る甘い感覚にお京は思わず呻いた。
「あっ! あん…っ。お、親分…。や、野暮はよしましょうや…」
「何言ってるんだ。俺は本気だぜ? お京…」
 万七は酒臭い息を吹きかけながら耳元で囁く。どうやら性質の悪い酒のようだ。お京も困った顔で持て余し気味となる。
「あっ!!」
 それまでちびちびと焼き豆腐をつついていた豆岩が何かに驚いたように叫ぶ。
「んあ? 何だぁ?」
 ガスッ!!
 万七が振り向いて覗き込むと、豆岩はその首筋に鋭い一撃をくわえた。
「うぅっ!!」
 短く叫んで崩れ落ちる万七。それを抱きかかえると豆岩はわざとらしく言った。
「親分、大丈夫ですかい? ちょいと飲みすぎたようですね。おぉい! 俺たちゃ帰ぇるぜ! お勘定っ!!」
 万七を抱えて暖簾をくぐりながら、豆岩はお京に向かってニヤリと微笑んだ。
 勘定を済ませて店を出るとお京は済まなそうに言う。
「岩、ありがとう…」
「いいんですよ。こういうのはあっしに任せておいて下さい。あっしはこいつをそこいらの軒下に放り出してきますから、お嬢さんはちょいと待ってて下さいまし」
 大柄な万七の身体を支えて歩いていく頼もしい豆岩の後ろ姿を見て、お京はひどく安心感を感じていた。
 それは幼い頃、父の背におぶさって感じていたような安堵である。
(岩…あんた…。もしかして…もしかして…。あたしのこと…?)
 万七の強引な愛撫で性感が高まっていたお京のふんどしの中で淫花がじゅん、と潤んでしまう。
(嫌だよ! あたしの…バカ娘っ!!)
 自分の御満子のはしたなさを心の中でなじってお京は一人、赤面した。


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