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マリネしたマジックマッシュルーム
【痴漢/痴女 官能小説】

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5.-1




 スタンドは人がまばらだった。日曜日、康介のチームが大学生との練習試合があるというから由香里まで引っ張り出されていた。
 東京に出てきて一ヶ月近くが経っていたが、彩希の仕事は見つかっていなかった。家賃・生活費を折半する費用は、とりあえず貯金を崩して何とかなっていたが、それも早晩底を尽きそうだった。
 とにかく当面のアルバイトを探すのだが、札幌でもやっていた居酒屋のアルバイトは面接に行っても外国人労働者にことごとく負けてしまって断られてしまっていた。一般企業の事務員にも応募してみるが、いよいよいい感じに灼けてきた小麦肌に金髪の履歴書写真では面接にすら漕ぎ付けることができない。
「私と同じバイト、紹介しよっか?」
「やだよ、フーゾクなんて。康ちゃんが泣く」
 風俗じゃねえっつうの。由香里は学費を工面するためにガールズバーのアルバイトをしていた。性的なサービスはもちろんないが、オンナであることを武器に――特に由香里の場合、目を惹き付けるバストを目立たせる衣装で接客をしているのだから、水商売であるといえば確かにそうだ。
(まずは日サロ通いやめろよ……)
 そうすれば日サロ代が浮くし、せめて肌だけでも白くなれば採用しようという雇用主もいるかもしれない。今月分の家賃はキチンと渡しされたし、学校に行っている時に洗濯や掃除もしてくれている。特別寝相が悪いわけでも鼾がうるさいわけでもなかったから、シングルベッドに二人で寝るのも慣れてしまった。どこかズレてんだけど、弟のためなら一所懸命、真面目にやろうとしてるんだなぁ、と彩希を見ていると小言が言えなかった。
「ね、私ら超浮いてない? アフロとギャル女なんかどこにもいねーんだけど」
 由香里はサッカーには特別興味がないので、足を組み頬杖をついた気怠い姿勢でスタンドを見渡した。大学生側の部員たち、ユースチーム側のスタッフと思しき人々。皆ジャージ姿だ。唯一、最前列に制服を着た三人の女子高生がいた。誰かお目当てでもいるのだろう、女の子どうし身を寄せ合ってキャイキャイとちちくり合っている。
「……そんなのどうでもいい。康ちゃんがいない」
 グラウンドでプレーをしている選手たちの中に康介の姿はなかった。ベンチ前でアップしている集団にもいない。
「あー……、出してもらえないんじゃん?」
 スタンドってやっぱ禁煙だよね、と思いつつ、由香里は名もなき大学生と名もなきユース選手たちをまだ一時間も見守るのかと思うと欠伸が出てしまいそうだった。
「どうやったら試合に出れるの? 康ちゃん出してよ」
「知らねえよ。あそこにいるオッチャンに聞いてよ」
 由香里は眉を顰め、ユース側のベンチから時折フィールド際まで出て大声で指示を送っている監督らしき男を顎で差す。
「わかった。あの人だね」
 由香里は重たげなサンダルをコンクリート床に付いて立ち上がろうとする彩希のニットを頬杖をついたまま引っ張った。
「やめれ」
「……だって」
「……お姉ちゃんがしゃしゃり出て、『ウチの康ちゃんを試合に出してください』なんて言ったら、康介くん、恥ずかしくてチームに居れなくなるよ?」
「せっかく来たのに……」
 彩希は不承々々でスタンドの椅子に座った。わざわざ早起きして電車に乗り、サッカーを見に来たわけではない。康介を見に来たのだ。
 東京に来てから頻繁にメッセージを送り、康介も練習が終われば必ず返信をしてくれていた。寮生活といっても会う時間くらいはあると思っていたのに、会いに行きたいと彩希が言うと、『練習』と『試合』を理由に会う暇がなかった。せっかく周囲を気にせず康介と会えると思って東京に来たのに、北海道でよりもむしろ会えない、毎日見ていた顔も見られないとあっては、猛烈に恋しくなって、彩希は練習試合の場所を聞き出しわざわざ康介の姿を見に来たのだった。この後少しでも会えたらいいなと期待していた。こんな調子ではいつまで経ってもあの夜の「続き」ができるわけがない。康介だってウズウズしているに違いない。試合後に会ったとして康介が仕掛ける雰囲気になるわけがないのに、彩希は何があるか分からないと思って下着にも気遣いを見せてやって来ていた。
 赤の他人がボールを追っている姿は彩希だって見ていてもつまらなかったから、口を尖らせてスタンドへ視線を巡らせた。最前列の女子高生の一人が、何とかセンパイと黄色い声をかけている。康介も北海道では三人どころではないファンの女の子達から声援を送られていたものだ。そんな康介が……改めてそう思うと優越感からくるニヤケ顔が漏れて、隣の由香里を気味悪がらせた。
 三人のうちの一人が視線を感じたのか、彩希たちのほうを一瞥してきた。試合に夢中の二人の肩を叩き、再度彩希たちをみてヒソヒソと何か話している。
「なんか言われてる」
 彩希が呟くと、同じ方を向いた由香里がうんうんと頷き、
「そりゃ、どーみたってニヤけたギャルは不審者だからね」
 と溜息混じりで言った。
「……睨まれた気する」
「ま、サッカーよくわかんねークセに、ギャルが何しに来てんだよ、って感じなんじゃん? あの子達からしたら」


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