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たぎる
【その他 官能小説】

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たぎる-2

(2)

(ふざけたんだろう……甘えたのか?……)
 さして気にも留めなかったが、しばらくして『ある事』に気づいた。
(下着がなくなった……)のである。

 生来、無精なところがあって、専業主婦なのに洗濯物はよく2、3日溜めてしまう。いよいよとなって洗う時には山になった洗い物を数回にわけて午前中いっぱいかけて洗うのである。合間にテレビを観ながら、のんびりと。

 無頓着の割には下着はたくさん持っている。それもうっかり見過ごした原因かもしれない。
 下着が多いのは夫の趣味による。下着フェチ……である。全裸よりも裸身に下着が絡んでいるほうが昂奮するという。
 セックスの時は上下下着を着けたまま夫の愛撫からはじまる。舌と唇が熱い息とともに全身を這う。敏感な乳首や秘部には触れられない。もどかしいが、肌を這うように微妙な快感が局部に向かって流れていく。
 やがてやさしくうつ伏せにされる。ブラジャーのホックが外され、大きめの乳房が締め付けから解放され、同時に夫の唇が背に吸いつき、舌の動きを交えながら下がっていく。ショーツ越しに尻を揉まれ、頬ずりを繰り返してくる。そして少しずつ下されて溝が露になっていく。

 ショーツは片脚だけ抜かれ、膝の辺りに残される。それがいいという。乱れた様子が淫らさを増幅させるのだろうか。
 
(早く、肝心なところを舐めてほしい……)
すでに蜜は裂け目から洩れているが、夫は木綿子から離れると仰向けになる。漲った下半身。
(交代だよ……)
目がそう言っていた。
 起き上がるとだらりと垂れたブラジャーの隙間から揺れる乳房が見える。
(これが夫にはたまらないのだろう)
(ああ、ペニス)
一段といきり立っているのがわかる。

 幹を握って吸うように含む。
「ああ……」
夫の喜悦の声。木綿子も十分燃えているから、勢い、激しいフェラになる。口の中でペニスがしなる。我慢できなくなって咥えたまま体を回し、夫の顔を跨いで股間を近づける。

「うぐ!」
舌先が陰唇を割って蕾に触れる。
 こうなると互いに貪るように性器を攻め合い、耐えられなくなった木綿子が転がるように仰向けになったところに夫が素早く重なって間を置かずに快感の波を煽ってくる。
 そうして夫の動きに合わせて動きながら絶頂に向かうのである。気がつくと下着は身につけられている。夫が着せてくれたのだ。事後でも億劫がらずにいつもそうしてくれる。
 新しい下着を見るたび夫は喜んだ。中には下着の用をなさない『プレイ用』のものもある。そのまま結合できる前が開いたもので思い切って通販で買ったものだ。それが見当たらなくなって気づいたのだった。

 まさかと思いながら正彦の部屋を探してベッドの中から見つけた時には、驚きよりも全身が熱くなるほど恥ずかしかった。よりによってこんないやらしい下着を……。ほかにも3着、自分では忘れていた下着が布団のなかにあった。

(どうしよう……)
いったいいつから……。
しばらく頭が混乱していた。
(興味をもつ年頃なんだ……)
身近な大人の女が母親で、性的関心が下着ということだ。深い意味はない。
(一過性のものだ……)
半ば言い聞かせるように気持ちを落ち着かせた。
(それにしても……)
洗っていないものばかり。
(いやだわ……)
 
 考えた末、そのままにしたのは、無くなれば持ち去ったのは誰かわかってしまうからだ。
(自分しかいない)
母親にばれたと知ったら正彦はどう思うか。親子の間にわだかまりが生まれるかもしれない。それはもっと困ることになりそうに思えた。
 以来、洗濯物を溜めないように心掛け、下着が無くなることはなかった。

 このことは思春期の少年の性的欲求の結果だと割り切りながら、時に木綿子の心に雨雲のような湿潤な揺らぎをもたらすことがあった。
(あたしの下着を……どうしているんだろう……)
においを嗅いでいるのか。まさか身につけたりはしないだろうが……。
 想像を巡らせると穏やかでなくなってしまうのだった。
 そうして何事もなかったように過ぎていった日々。不意の出来事はむろん予期せぬことだった。だが、心に隙間はなかったか。……
 木綿子は見え隠れする迷いを凝視できず、こころもとない自身を見つめていた。


  
  


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