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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-3


せっかく奏多が気にかけてくれたものの、休憩をそこそこに終わらせて練習場に戻った和音は、隊長から暇だと勘違いをされ、頼まれものをされた。
特に大変なことではない。練習場に置いたままになっているDVDを楽器の置いてある外倉庫に片付けてくることだった。

「はぁ・・・」

面倒だな・・と思いつつ、頼まれた通りにDVDを片手に練習場から外倉庫までの道を歩く。
自分の手にあるDVDを見て、和音は顔をしかめる。そのディスクに入っている映像を頭の片隅で思い出した彼女にとっては、あまり見たくもないものだった。

「・・・・」


このDVDに記録されている映像は、9年前のフェスティバルにて一人の少女が演奏し、見事に最優秀演奏者賞を受賞した舞台だった。
鼓笛隊の隊員としてなら、輝かしい記録映像。
しかし、和音個人の気持ちはそんな明るい気持ちになれるものではなかった。
それには、和音の性格・・いや、それ以上に、プライドが深く渦巻いていたせい。

10年前。当時7歳だった和音は、今以上にホルンを吹いて過ごしていた。
その実力は子供の域を超えるものだと自他共に理解されるほどだった。子供ながらに、自分が持って生まれた天賦の才能を感じていた和音。それでも、鼓笛隊に入ったばかりの幼い時は楽しく吹いていた。音楽は、仲間と楽しく演奏するものだと。
だから、舞台にあがるのも楽しかったし、練習も苦ではなかった。
しかし。
姉の挫折を機に全てが変わってしまった。

それからの和音は練習をすることにも、仲間と演奏することにも、楽しさはなく、むしろ周りとの差を苦しく思うようになった。
そうして過ごしていた7歳の時。既に先輩隊員として、トランペットを吹く少女に出逢った。
和音よりも7歳年上で、みんなに優しく、明るく、そしてみんなに愛されていた少女。
音楽の才能は和音の意見上であるが、素晴らしいものを持っているとは思えなかった。
才能の有無に関しては、彼女と同い年な優羽の方が優っていた。
だけども何よりもトランペットが大好きで、純粋に愛していたことを感じ取っていた。

それでも自分の才能が揺らぐことはないと思った。音楽と、愛が関係しているとは思えなかったのだ。ましてや、彼女の才能に大きな開花が生まれるなんて思ってもいなかった。
しかし和音が8歳の時、そして彼女が15歳の時に行われたフェスティバルの舞台にて、彼女は隠れていた音楽の才能を大きく開花させた。
それだけなら、まだ良かった。
他人事にできたから。

しかし。彼女の音は、彼女の演奏は。
和音が今まで一度も出したことのない澄んだ音で、今まで一度も奏でたことのない心地よい演奏だった。

あのあと、どれだけ楽器や自分の状態が良くても、あんな澄んだ音が出ない。
彼女本人にもあんな演奏ができた理由を聞いても、照れくさそうにはにかむだけでハッキリとした答えは返って来なかった。
ただ一つ。幼かった和音に分かったことは、彼女が自分の才能を抜かしたという事実。
音楽を楽しむことが出来なくなっていた和音にとって、楽器を吹く唯一の理由だった、誰よりも秀でた音楽の才能を抜かされたことは何よりも大きなショックを与えた。

そんな和音を見かねたのか、彼女はアメリカに旅立つことになった際に話をした。
照れくさそうにはにかんでいた頃とは変わって、寂しそうな作り笑顔で、

『あの時はね、大好きな人のために吹いたんだよ。』

それは、和音が待ち望んでいた答えのようで、爆弾のようなものだった。





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