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飛べない鳥の飛ばし方
【ファンタジー 官能小説】

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痛みと悦び-3


 きっと今日もリョウツゥが出迎えてくれる。
 だからいつも体毛が元に戻ってから帰る事にしていた。
 小さな声で『おかえりなさい』と言ってくれるのが好きだ。
 嬉しそうに緩んだ笑顔が好きだ。

(やっべぇなぁ)

 そう。

 つまりはリョウツゥが好きだ、という事なのだ。
 常におどおどしてて、のんびりでポヤンとしてて、心配で気になってしまう。
 しかし、実のところは意外としっかりしてて1人でもちゃんとやれている。
 遠い緑の地域から1人でクアトリアまで来たのが良い証拠だ。
 『一人前になりたい』らしいが、ジルから見たら立派な『一人前』だ。

(オレとは大違いだな)

 生きる為とはいえスパイディの元でかなりの悪どい事をしてきたジルにはリョウツゥが眩しい。
 それが憧れだろうが嫉妬であろうが関係ない。
 リョウツゥが立派で、とても可愛くて、凄く健気で、かなり大好きなのは事実なのだ。

(発情期……気をつけねぇとな……)

 緑の民の貞操の固さは有名だ。
 男女共に結婚までは童貞、処女が必須。
 でないと緑の月に翼をもがれるらしい。

(緑の月ってコワっ)

 翼もぐとかどうよ?なんて考えながら歩いていたらアパートが見えてきた。
 もう一度、尻尾を確認してみたら黒い色素はすっかり抜けて元の青い体毛に戻っていた。
 そろそろリョウツゥが声をかけてくれるかなぁ、と待っていたが今日はまだ寝ているようだ。
 リョウツゥの部屋のカーテンは開いてない。
 暫くつっ立って待ってみたが、揺れもしないカーテンを眺めているのが馬鹿らしくなって止めた。

(ちっ)

 どんなに疲れててもリョウツゥの声が聞けたら元気になるのに。
 ジルはかなりがっかりしながら部屋へ向かい、鍵をポケットから取り出して……そのまま落とした。

カシャッ

 っと乾いた音が響く。

「あ、お帰りなさい」

 部屋の前には、リョウツゥが立っていた。

「あ?え?あぁ、うん。ただ……いま?」

 何故か疑問系になってしまったが、普通そうなるだろう。
 リョウツゥがジルを訪ねる事など今までなかったのだから。

「何か、あったのか?」

 ジルは落としてしまった鍵を拾ってリョウツゥに尋ねる。



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