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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第一話-3

  ◆  ◆  ◆

 生徒達が帰り、すっかり人気(ひとけ)のなくなった教室。時刻は夕方だが日はまだ高く、黄昏には早い時間帯。グラウンドでは部活に精を出す運動部の大きなかけ声やホイッスルの音が響いている。
 大人には少々窮屈なイスに座り、彼女は広げた日誌に目を通していた。生徒が書いた癖のある丸っこい文字を一行一行丁寧に追っていくが、一向に意味が理解できない。いや、文字は読める。文章も読める。だが……。
 ふと視線をずらした。ペンケースの横に置かれたシャンパンパールの携帯。ストラップについている、縞模様が綺麗な深緑色の天然石は自分の誕生石だ。学生時代、誕生日にプレゼントされた物だった。携帯におもむろに手を伸ばして開く。小さなディスプレイを確認するが、そこに望む文字は並んでいない。息を吐いて画面を閉じると同じ場所に置いた。
 集中できない。
 職員室は人の気配が多すぎるし、他の同僚教師に見られるのも嫌だった。だからこそ、人のいない教室でこうして仕事をしているというのに。
 このままでは駄目だ。
 気分を入れ替えるために両手を上げ、大きく伸びをしてみる。背凭れに背中を預けて体を反らしていると、机から特有の振動音が響いた。
「!!」
 慌てて姿勢を戻すと携帯を素早く掴む。開いて画面を確認した。震える指先でキーを操作しメールを開く。方向キーを押しながらゆっくりと文面を読み進んだ。
「…………っ」
 次第に視界が歪み、保護シートを張ったディスプレイに水滴がいくつも落ちる。メールを読むのをやめた。携帯を額に押し付けて顔を俯けると唇から嗚咽が漏れ、思わず片手で口を覆った。
 分かっていた。何となくそんな気はしていた。けれど……、こうして目の前に現実を突きつけられるのはやはりショックだ。
 流れ落ちる涙もそのままに、見慣れた番号に電話をかける。数回の呼び出し音の後、女性の声で繋ぐ事は出来ない旨を知らせるメッセージが流れ始め、耐え切れなくなって切った。
「っうっ……、うっ、う……」
 手の中の携帯を強く握りしめる。
 広げられた日誌もそのままに、彼女は机に突っ伏し、声を上げて泣いた。

  ◆  ◆  ◆


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