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貧乳コンプレックス
【青春 恋愛小説】

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貧乳コンプレックス-5

どうしよう、嬉しくて仕方ない。
それでも何故か心がもやもやしているのは、あいつの心が分からないせい。
真っ先に飛び込んでくれたなんて、そんなこと言われたら思わず期待しちゃうよ。
でも、あいつは優しいから。
きっと溺れたのが別の子でもそうしたかもしれないから。
心が痛む。もやもやする。
わたしはシーツを頭まで被り、どうにかこの50分間、あいつのことを考えないようにしようと決めた。


――考えないように、意識しないように。
結局そんなのは無理だった。
頭に思い浮かべてしまうのはどうしても保住の姿だった。
「はあ……」
わたしは深い溜息を付く。
終業のチャイムが鳴り、再び廊下が騒がしくなる。
戻ろうか戻るまいか迷ったが、こうなったらもう帰りのHRが終わるまで此処にいようと決めた。
保健室は日当たりも良いし、風も適度に入って来る。心地良かった。

「牧田さん?」
「あ、はい」
先生がわたしを呼ぶ。
起き上がろうとするわたしに、先生はそのままで良いからと言った。
「ごめんなさいね、先生ちょっと外出るんだけど……起きれるかしら。もし起きれそうになかったら、一人になっちゃうけれど寝ていて良いわよ」
なるべく早く帰りなさいねと付け加えると、先生は忙しなく保健室から出て行った。
独りになった保健室。
別に起きることは出来るんだけれど、折角だからもう少し寝ていよう。HRもまだ終わらないだろうし。
そんなことを考えていると、何だか急に眠気が襲って来た。
瞼が重くなって、わたしは目を閉じてごろりと寝返りを打つ。


それから少ししてドアを開ける音がした。
保健の先生が戻ってきたのだろうか。
そして、ドアを閉める音。
「牧田」

――おそらく、わたしの身体は一瞬びくっと跳ね上がっていただろう。
それを知ってか知らずか、そいつはベッドの脇の椅子に腰を下ろした。
「寝てるのか?」
「寝て、ないよ」
保住の問い掛けに、少し掠れた声でわたしは答えた。
シーツを頭まで被ったままなのは、赤い顔をあいつに見られたくないからだ。
しかしそれが気になったのか、保住は言う。
「なあ、まだ気分悪いのか?」
「大丈夫」
一言だけ言って、わたしは少しだけ顔を出した。
すると、いつも笑っている保住の顔がそこにはない。
眉を八の字にして、困ったようなそんな表情。
「保住……?」
「あのさ、悪かった」
わたしは思わず起き上がって、まじまじと保住の顔を見つめた。
妙にしおらしく謝る保住。
「……何?」
首を傾げるわたしに、保住は言う。
「何か……俺があんまりからかったから、足攣ったの、そのせいかと思って」
言って保住はうな垂れる。
そんな、そんなに気にすることなんかないのに。
わたしは首を横に振った。
「そんなことないんだから、気にすることないって! それと、助けてくれて……ありがと」
前半はいつものように笑いながら言って、最後の方は声が小さくなった。
でも、素直に言えた。


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