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貧乳コンプレックス
【青春 恋愛小説】

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貧乳コンプレックス-1

牧田茜(まきたあかね)、17歳。身長155cm、体重は……まあ、秘密。
人はわたしを良く華奢だと言う。確かに、自分でも太ってはいないと思っている。
でも、華奢なんて本当都合良い言葉よね。
いや、言われて決して嫌な言葉ではないのだけれど、わたしにはあるコンプレックスがあるのだ。
それが――

「貧乳」
「うるさい、バカ」
保住尚之(ほずみなおゆき)、17歳。175cmのこの男は、椅子に座っている時でさえわたしを見下ろしながらこうやってわたしをバカにする。
チビだバカだ何だ、そして――
「貧乳を貧乳って言って何が悪いんだよ」
ずし、とわたしの頭に重く圧し掛かるこの2文字。
中学でやっと付けたブラジャーはスポーツブラ。高校に入って脱スポブラしたは良いものの、未だにAAカップ。
これがわたしの最大のコンプレックス、『貧乳』だ。

睨み付けるわたしの視線なんて痛くない、と言うかのように保住はへらへらと笑っている。
この笑いもこのいつものやり取りもいい加減呆れるしムカつくけど、それでもこの男に対してわたしは弱みを持っていて、それがある限り、わたしはこの男を本気で怒ることは出来ない。
「貧乳で何が悪いわけ!?」
「開き直りやがったな」
がた、と椅子に座っていたわたしは思わず立ち上がった。
同時に口の端を吊り上げながら保住も立ち上がり、二人間合いを取るように睨み合う。
そうして保住は一歩だけ後退し――いや、後退したかと思えば、いきなりダッシュで教室を飛び出した。
「ッ! この、保住ぃッ!」
半ば反射的にわたしも奴を追うべく駆け出し、乱暴にドアを開けて飛び出して行く。
そんな騒がしい昼休みの一場面。
教室で歓談しながら昼飯を食べるクラスメイト達は、わたし達のことなんか気にも留めていない。
わたしの友人に至っては、またか、とでも言うような視線をちらりと送るだけだ。
そう、保住とわたしのこのやり取りは日常茶飯なわけで。
全く、良く自分でも飽きないな、と思う。

(飽きる筈もない、か)
保住の姿を追いかけながら、わたしは心の中でそんなことを呟いた。
そうなのだ。
お察しの通り、恥ずかしながらわたしは保住に惚れていた。

高校1年の時に同じクラスになり、ホズミ・マキタと言う苗字で出席番号も近い。
グループワークや清掃班などで良く同じ班になったわたし達は、男女を越えて仲が良かった。
わたしも保住のことは気兼ねなく何でも話せる友達だと思っていたし、多分あいつもそうだったと思う。
そんなわたしがあいつのことを意識したのは、1年の終わり。
保住が他クラスの子と付き合い始めたと耳にしたのが始まりだった。
心の中でもやもやとした嫌なものが渦巻き、保住とその子との噂を聞くのが嫌で嫌で仕方がなかった。
2年生になりまた同じクラスになって、嬉しい反面何だか落ち着かなかった。
そんな時、保住とその子とが別れたと言う話を聞く。
その話を聞いた時、わたしはこれ以上ないほどに安堵してしまった。
そして、わたしは自分の心に気が付いたのだ。
牧田茜は保住尚之が好きだ、と言うことに。

あいつに対するわたしの弱み――それは紛れもなく、わたしが奴に惚れていると言うことである。
あいつはきっと、こんなこと知らないだろうけれど。


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