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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 4.-4

「ごめん」直樹が静かに言う。「……緊張してるんだ」
 取ってつけたような言葉の後、ゴトッという音、そしてベッドが軋み、シーツが擦れる音が聞こえた。おおかたベッドの下に携帯を隠し置き、愛美の近くに座ったのだろう。
「……直くん」
 愛美の声が甘ったるくなる。「ん……」
 吐息が微かに聞こえてくる。息遣いが時々重なる。遠い。もっとよく聞きたい。少しすると、チュッ、ピチャ、という湿音が届いてきた。有紗はそれを聞いた瞬間、全身を有刺鉄線で幾重にも縛り付けられたかのような灼ける痛みに襲われて、ディルドに歯を立てて呻きを押し殺した。お互いどんな顔でキスをしているのだろう? 唯一の肉親である妹。唯一の愛しい人である直樹。どちらの顔もよく知っている。その二人がどんな顔を向け合っているのだろう。
 長い。自分とする時よりもずっと長い。
 愛美は直樹の気分が盛り上がって来るのを、キスを続けて待っている。だから長くなってしまうのだ。自分がするときは、もう、唇を合わせた時から直樹は盛り上がって、早々にキスを終わらせてねだってくる。その時間差だ。
 湿音が止んだ。ゴソゴソと聞こえる。物音だけでは何をしているか分からないから狂おしい。様々な可能性が浮かび上がった。何度も訪れた直樹の部屋、彼と交わったベッドはしっかりと憶えているから、その可能性一つ一つを鮮やかに頭の中で映像へと変換することができる。
「じっとしててもらっていい?」
「あ、ああ……。いいよ」
「なんか……、直くんいつもとちがうね」
 ヘタクソ。電話を意識しすぎなのだ。ぎこちない。
「……大丈夫」
「だいじょうぶってなんだよっ、もうっ……」
 愛美の拗ねた笑み声は、語尾が哀しげに萎れた。沈黙。いや、少しだけ物音が聞こえてくる。何かが擦れる音だ。布? 肌? そこまでは分からない。
「うっ……」
 するとチュッと唇が吸着する音とともに、直樹の呻きが精彩に聞こえてきた。
「ん……」
 愛美が吐息を吐き、もう一度唇を鳴らし、直樹が悶える。「……直くん、きもちいい……?」
「……あ、……う、その……、わ、わからない」
 分からないわけないだろう。妹はどこかにキスをしている。どこかは分からないが、唇を押し当てて吸い付き、離す拍子に湿音を鳴らしているのだ。そして直樹が呻いている。
「かたくなってる……」
 その言葉に有紗は咄嗟にディルドを吐き出し、口を結んで愛美の枕に顔を押し付けた。頭の中に、ゆかしく生え揃う縮毛から突き出る神体を思い出した。指でなぞり舌を這わせると、淫らな期待に怯えるように震える、麗しい彼の体の硬みと先端から漏れる聖なる雫。
(直樹っ……)
 悲鳴が漏れそうだった。愛美が口づけが聞こえる。あの子は今、彼の幹のどの辺りに触れているのだろう。ディルドは長く、有紗が両手で握っても余りが突き出て隠せなかった。有紗が知っている、彼が最も反応を示してしまう場所を、愛美が発見してしまわぬよう手で覆い握り、何者からも守護するかのように胸元に押し抱いて祈っていた。
「……お、男の子でも、ち、ちくびってきもちいいんでしょ?」
 愛美の感想に有紗は目を開いた。
 ……早とちり。有紗の脳裏の映像は、すぐさま直樹が後ろ手を突いて痩せた上躯を晒し、正座をした愛美が背を傾けて胸板に顔を伸ばしている姿に切り替わった。止まりそうだった息を吐き出して電話の方へ向き直る。そう、直樹は乳首も弱い。だが自分がキスをする時はもっと乱れる。悶絶して女が感じる時のような声を漏らす。今はそこまでの喘ぎは聞こえてこない。
「……だ、だから、わからないって」
 だから、分からないわけないだろう。イエスともノーとも言わないなんて、心尽くしに愛撫をしている愛美に対して、そしてその様子を盗み聞きしている自分に対する侮辱だ。
「どう? モ、モヤモヤしてくる?」
「……」
「見ていい?」
 直樹は黙った。愛美の溜息が聞こえてきた気がした。ベルトが外れ、ジッパーが降ろされる音。直樹は素直に下肢を脱がされることに応じているらしい。何故言葉にして答えてやらないのだろう。何も言ってもらえずに、真実を見せられるほうが余程傷つくのに。
「……ごめん」
「……っ」
 二人の声が聞こえてきた時、有紗の奥から新たな蜜が迸った。




 直樹はエスカレーターの踊り場で有紗を抱きしめながら問うた。
「なんで……、仕事やめるの?」
「……なんでだと思う?」
 有紗は俯いたまま、「……システムのこと、まだぜんぜんわかってないけと、べつに仕事が辛いわけじゃない。職場の人間関係も悪いわけじゃない。でもやめちゃうの。……なんでだと、直樹は思う?」
「俺のせい?」
「直樹のせいで、なんで会社やめることになっちゃうの?」
「……ごめん。わからない」
 鈍感。
 有紗は直樹の手を取ってエスカレーターに乗せた。帰ろう。東京は遠い。
「ね、有紗さん、何でやめるの?」
 答えを教えてもらえない直樹は不安になって問い質してきた。不吉な予感がするのだろう。鈍感でもそれくらい分かるらしい。
「直樹……、愛美ともう、できた?」


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