投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

闇よ美しく舞へ。の最初へ 闇よ美しく舞へ。 3 闇よ美しく舞へ。 5 闇よ美しく舞へ。の最後へ

闇よ美しく舞へ。『借り事』-2

「ねえねえ、それってこの前テレビで紹介されていた『猫の本』でしょ。龍神(たつがみ)さんって猫が好きなんだ」
 取り分けて猫が好き……と言う訳では無かった。たまたま見つけて購入した、可愛らしくも有る猫たちの愛くるしい写真集を、教室の隅で眺めて居た『龍神 美闇(たつがみ みあん)』ではあったが。どうやらそんな彼女を見つけると、案の定、『青柳 那緒(あおやぎ なお)』が「ねえねえ見せて見せて!」とせがんで来た。
 美闇とて那緒の悪い癖を知らない訳では無い。がしかし、彼女はそんな那緒の『くれくれ魔女』ぶりを気に止めている風も無く。
「どうぞっ」
 持っていた『猫の本』を、気さくに那緒へと差し出していた。
 那緒は嬉しそうに美闇から本を受け取ると、それをクラスの女子数人に見せながら、皆でワイワイと盛り上がって居る。
 そしてその『猫の本』が再び美闇の元へ帰って来たのは、3日後だった。しかも返しに来たのは那緒本人では無く、隣のクラスの女生徒からである。
「ごめんなさい龍神さん。青柳さんに聞いたんだけど……これ、あなたの本なんでしょ。うちの教室に放りっ放しになってて……それでぇ」
「気にしないで。わたしも気にして無いから」
「……そう。なら良いんだけどぉ」
 恐縮したように頭を下げる女子に、美闇も笑顔で答えると、改めて返してもらった本を開いても見る。
 表紙はボロボロ、あちこち泥だらけ、良く見るとページの所々も引き千切られていて、可愛らしい猫のグラビア写真が幾つも無くなっている。恐らく誰彼とも無く『ああーー! あたしこの写真欲しい!』と、皆で持って行ったのだろう事が伺えた。
 そんな本を見詰めて美闇は、何やら口元を ”ニヤリ”とさせもするが……
 

 数日後。

「それもアンティークなの? 今買うと高価(たかい)んでしょ」
 同じクラスの女子に聞かれ、美闇は「そんなことないよ」と、気さくに笑って見せた。
 赤い生地に緑色と黄色の格子模様の入った小さな巾着袋(きんちゃくぶくろ)。美闇はそれを大事そうに手で持ちながら、
「お婆ちゃんみたいな趣味でしょ」
 そう言って、また笑う。
「ぜんぜんそんな事ないよ! 可愛いよ!!」
 見ていた女子も、お世辞抜きに絶賛していた。
 すると。
「うわぁ〜〜可愛いぃ! ねえねえ龍神さん、それ貸してぇ!!」
 案の定、那緒である。
 那緒はさっそく美闇が持っていた巾着袋を取り上げると、巾着の口を閉じるために付いている、金色と白、それに青の三色の錦糸(にしきいと)で編み上げた組紐(くみひも)を握り締め、ぐるぐると振り回しながら。
「ねえねえ可愛いでしょ! 似合う!!」
 はしゃぎながら、それをクラスメイト達に見せびらかしていた。
「ちょっとそれって、龍神さんのでしょ! 粗末に扱わないで早く返しなさいよ!」
 余りにも那緒の傍若無人(ぼうじゃくぶじん)ぶりに、クラスの女の子たちも少し腹を立てたのだろう、そう言って那緒の事を叱りもするが。
「大丈夫、大丈夫っ!」
 相変わらず那緒は、マイペースである。
「そうな事言ってお前っ! 龍神様(りゅうじんさま)を怒らせると、罰が当たるぞっ!」
 どうやら話を聞いていた男子の一人が、冗談にもそんな事を言って、美闇の顔色を伺ったりもするが。
「そんな事無いよ、龍神(たつがみ)さんって優しいもんっ。怒ったりしないわよねぇ」
 那美は相変わらず美闇の巾着を振り回しながら、脳天気な笑顔を、美闇に向けていた。


闇よ美しく舞へ。の最初へ 闇よ美しく舞へ。 3 闇よ美しく舞へ。 5 闇よ美しく舞へ。の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前