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闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

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闇よ美しく舞へ。『借り事』-1

「諸君っ、見たまえ! 最新型の『RXー606』だっ!!」
『おおっすげーーっ! 本物って初めて見たぜっ!!』
 クラスで一番のブルジュワジイ『望月 清二(もちずき せいじ)』。そんな彼が同じクラスの男子生徒に見せびらかせて居たのは、どうやら新しい携帯電話のようである。
「父さんがさ、『お前もそろそろグローバルな将来を見据えて、これで株でもやってみろ』ってね。こんな携帯端末を持たせてよこしたのさっ」
「へ〜〜、さすが金持ち! 言う事が違うなぁ!」
「って言うか、うちの学校基本的には携帯禁止じゃん。授業中に株なんかやってたなんて知れたら、指導の貝塚(かいずか)に取り上げられちまうぜっ!!」
 そんな会話をしつつ、清二の友人たちも、そんな彼の手に握られている最新式の携帯電話を羨(うらや)ましそうに見詰めながら、皆で騒ぎ立てていた。
 ところで、今回のお話の主役は勿論……彼、清二では無い。
 今回気になるのは……


「えーなになにっそれーー! 見せて見せてーー!!」
 一人の女生徒が清二の持っていた最新型の携帯電話を引っ手繰るようにして奪い取ると、何やら勝手にキーを押して操作を始めたらしい。
「あっこらっ青柳っ! 返せよっ!!」
「いいじゃんちょっとくらい! ああ〜このアプリおもしろ〜〜いっ! ねえねえサイトに繋いでもいいっ! 承認押しちゃおうかなぁ」
「ばかこらっ! 止めんか!」
 何やら怪しいサイトに繋がる寸前、清二は女生徒から携帯を取り返すと、慌ててズボンのポケットへと、しまい込んだ。
「まったくっ! 油断も隙も有ったもんじゃねぇ。そう言う事は自分の携帯でやれよなっ!!」
 清二の罵声もなんのその、まったくもって反省の色など無いこの女生徒、名前を『青柳 那緒(あおやぎ なお)』と言う。容姿的には可愛くも有り、本来ならクラスのアイドル的存在として、特に男子生徒達から、ちやほやされてもおかしくは無いくらいの、美少女ではあったのだが。何分にもそうは成らない理由として、彼女には誠にもって迷惑な癖(くせ)が有った様だ。
 そう、彼女はクラスで一番……いやいや、学内で一番の『借りたがり屋』だったからである。
 那緒は既に自分自身が持っている物と同じ物だろうと、あるいは、他人が持っている珍しいもの、大切な物、ところ構わず『ねえねえ貸して貸してっ!』とせがみつき、まったくもって迷惑な人と言うレッテルが張られているらしい。
 確かに、可愛らしい彼女に「ちょっと貸して」と言われれば、誰でも始めの内は親切に貸しても居たらしいが。
「青柳さん…… この前貸した『お料理のレシピ』本、まだ返してもらってないんだけど……」
「あれ…… そうだっけ!? って言うかぁ、あれって和子に貸しちゃったのよね。だから和子に聞いてみてよ!」
 人から借りた物を、他人に又貸しするなど日常茶飯事(にちじょうさはんじ)。
「ねえねえこのワンピース可愛い〜! 美由紀ちゃんにピッタリだよ! ねえねえ買っちゃえばっ」
 と、オシャレな洋服を友達に勧めてくれるのは良いけれど。
「ところで美由紀ちゃん! この前買ったワンピース、今度貸してくれない! 従兄弟(いとこ)のお兄さんの結婚式に呼ばれちゃったの、あれ可愛いし綺麗だし、美由紀ちゃんとあたしって服のサイズ同じだったよね」
 人に買わせた物を、自分の都合だけで借り捲くり。
「ようっ黒澤っ! この前借りた『山中ひろし探検隊』のビデオ貸しに来たぜ!」
「えっなになに! 『山中ひろし探検隊』! あたしにも見せて見せてっ!!」
 と、他人の話に横槍(よこやり)まで入れて来る始末。
 そればかりでなく、酷い事に彼女は、他人から借りた物をきちんと返さないと言う、だらしなさに加え。人が大切にしている物だからと言って丁寧に取り扱う、などと木目細やか(きめこまやか)な心配りなども出来ず、クラスの誰もが知れた事と成る悪女な一面を曝(さら)け出すと、とうとう付いたあだ名が『くれくれ魔女』。表向きはちやほやされては居るものの、どうやらクラスの誰しもが煙たがる、存在に成ってしまった様子である。


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