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【箱庭の住人達 〜喪失〜】
【サイコ その他小説】

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#1-3


 飾り気の無い部屋。
 窓際にある小さな文机と壁際の衣装ダンス。掃除の行き届いた綺麗な畳敷きの部屋の、中央に敷かれた一組の布団。布団は一見すると綺麗に見えるが、良く見れば敷布団には何処からなのか気味の悪い染みが広がっているのが分る。その布団の中に横たえられているのは、あれは、少年の母親か。
 長い黒髪は丁寧にまとめられ、肩口から胸元へ流してある。顔はハンカチらしき布で覆われていたので、どうなっているのか解らない。記憶の中にある少年の母親は、歳相応だが上品な美しい顔立ちをしていたと思う。汚れのある布団に比べ、ハンカチは綺麗で、こまめに交換されているのかもしれなかった。
 枕元には丸い盆が置かれ、小さな花瓶には庭から切ってきたらしい夏菊が数本生けられている。


 彼女は最初、目の前に何があるのか解らなかった。清潔な部屋の中の異質な一点を見つめながら、脳がそれを違うと拒否する。もしかしたら、見たくなくなかったのかもしれない。
 強烈な圧迫感を伴って小さな部屋に充満する暴力的な臭気の中、何も考えることが出来ず、暫く目を開いて立ち尽くしていた。

「どうかしましたか?」
 どのくらいの時間そうしていたのか、部屋の入り口で呆然としていた彼女は、背後からの呼びかけに反射的に振り向く。見下ろせば、近くで少年が小首を傾げて立っている。
「…………」
 彼女は口を開くが声にはならない。目の前の出来事に飲み込まれ、意識が思うように働かなくなっていた。
「永井君のお母さん?」
 もう一度少年が問いかける。
「た……、たかあき……、君?」
「はい」
 かすれた声で呼びかけると、ふわりと笑顔を浮かべて返事をする。その表情はあまりにも透明で、それゆえ異常だった。極限ともいえる状況にありながら日常の続きのように素直な笑顔を浮かべる少年に、永井の母親は背筋が寒くなる。


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