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闘犬
【その他 官能小説】

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春夏秋冬-1

昭和の年号が半世紀を迎えようとしていた頃、小湊一秋という小学生が東京の世田谷区に住んでいた。
駅前で小湊不動産を営む両親と一秋、そして弟の千広と4人で暮らしていた。

一秋の家は世田谷の住宅街にあり、周囲には昔からの住人が多く、古い木造住宅が沢山建っていた。まだ近所付き合いが気兼ねなく出来、家族同士のコミュニケーションが多く成された時代だった。
小湊家の右隣には、夫婦と大学に通う娘の宮坂家、左隣は白石と言う夫婦が住んでおり、路地を挟んで向かいには森田と言う地主の大きな家があった。

幼少の頃の一秋は隣の宮坂初枝と遊ぶのが好きだった。中学生だった初枝も一秋を弟の様にして良く面倒を見てくれた。初枝の父、宮坂周二郎は大学の教授で、「休日はいつも英語の本を読んでいるおじさん。」と言うのが、一秋の記憶である。
初枝は時々森田さんのおじいさんにことわり、森田の庭にある大きな水溜りで一秋と遊んでくれた。メダカやカエルが泳いでいて、一樹はそこで遊ぶのが好きだった。

「初枝ちゃん、オタマジャクシが沢山泳いでいるね。」一秋の言葉に顔を赤らめた年頃の初枝であった。

一秋は近所中を回り、遊び場所を探す活発な子供だった。しかし、白石の家には近寄れなかった。なぜなら、白石夫婦には子供がおらず、代わりという訳ではないが、犬を飼っていた。そして、飼われている犬は、顔がシワだらけの大きな土佐犬の闘犬だった。緑のフェンスの奥にコンクリートブロックが積み上げられ、隙間から覗きこ込むと中には立派な屋根の付いた大きな檻に、どっしり構えた闘犬がじっとしていて、一秋には不気味に思えていた。滅多に外で見る事は無かったが、綱引きのに使う様な太い縄につながれて、主人と散歩する犬に出くわす事もあった。「渦潮」其の犬はそう呼ばれていた。一秋には、犬の躾に厳しい白石が近寄りがたい人物で、また、青果市場に働く白石の時間帯が自分達と違っている事が印象に強かった。
白石の妻は菜穂子といい、旦那より一回り年下で優しそうな顔立ちの女性であり、一秋とも「おばさん」「かずちゃん」と話し合える間柄だった。おばさんと言っても30歳になったばかりで、引き締まった身体つきが若々しく印象づける女性であった。

一秋はトイレが怖くて庭でオシッコをする事が多くあった。「かずちゃん、おちんちん見えてるよ!」生け垣の向こうから菜穂子が声を掛けても気になる歳では無かった。

一秋が小学校2年生の梅雨、生まれて初めて嫉妬の様な苛立ち感じる出来事があった。それは学校の帰りに団地の階段で身体を寄せ合っている高校生を見つけた。男子はリーゼントの髪型にダボッとしたズボンを履いた不良の様で、女子は色白と言うより透き通った印象の清楚な感じの、、、、それは隣の初枝だった。一秋は何故だか息が止まりそうになり急いでその場を走り抜けた。
しかし数日後、また同じ場所で同じ光景を目にしてしまった。あいにく今回は初枝と目が合ってしまった。今度も走り去ったが、やはり息が止まりかけた感じがした。

夕方、偶然に家の前で帰宅した制服姿の初枝と出会してしまった。「かずちゃん。あの事、パパとママに内緒にしてくれない?」少し困った表情ながらも、初枝は強い口調で一秋にお願いをした。
「うん。誰にも言わない。」そう言った瞬間に苦しかった呼吸がモヤモヤとむかついた不快感に変わった。不思議だった。
小学2年の男の子には、嫉妬なのか寂しい気持ちなのか、理解も整理も出来なくて当たり前だが、異性に対する、もしくは大人に対する遣る瀬無い不快感を感じていた。

後日、普段は無口な宮坂周二郎の怒鳴り声が、隣家の一秋にまで届いた。その翌日、隣町の産婦人科から出て来る初枝を目撃したと言う噂が流れた。



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