ふたりの出会い-2
画面に表示された名前はユウ。
今日の待ち合わせ相手。
耳が痛くなるようなノイズと共に、なんとも不安げな男の声が流れてくる。
『桃子? あのさ。いま着いたんだけど……人が多くてわかんないや』
「もう! だから言ったのに、もっとわかりやすいところにしようって」
『……だって、コンビニ以外の場所に行くのって久々なんだ。こんなに混んでると思わなかったし』
「なにそれ、いきなり引きこもり自慢? いいから早く来て」
『きついなあ……いま信号渡ったところ。えっと、グレーのコートだっけ? 桃子みたいにこういう出会い系みたいなので何十人も会ってるわけじゃないからさ、緊張してるんだよ』
「そう、グレーのコートに黒のブーツ。髪は黒くて肩よりちょっと長いくらい。っていうか、何十人も会ってないよ。失礼なヤツ」
『どうしよう、やっぱり何処にいるのかわかんないや。桃子に見つけてもらった方が早いかな……こっちは黒いコートにジーンズ、スニーカー』
「わかった、そこから動かないで」
ああもう、いらいらする。
桃子はスマートフォンをポケットに突っ込み、出来の悪い弟を探すような気持ちで周囲をぐるりと見回した。
「黒いコートにジーンズね……」
なんだ、近くにいたんじゃない。
それらしき男はすぐに見つかった。
桃子のちょうど斜め後ろで、所在なさげにきょろきょろしている。
……うーん、まあまあ標準点ってところかな。
すらりとして背が高く顔立ちもそれなりに整っているのに、心細そうな表情と顔色の悪さがすべてをだいなしにしている感じがした。
桃子より2歳上、23だと言っていた年齢はおそらく本当だろう。
生理的嫌悪感を抱くほどでもないが、こちらから進んで抱かれたいと思うほどでもない。
第一印象は、当たりとハズレのちょうど中間といったところか。
一緒に食事をして飲みに行って、手をつないだりハグするくらいまでならアリ。
ホテルに誘われたら今日は断ろう。
軽いキスくらいまでなら許せる。
一瞬でそこまで考えてから、桃子はにっこりと微笑んで男のそばに駆け寄った。
この顔を気に入らないと帰った男はいまのところひとりもいない。
勝率100%、自慢の笑顔だ。