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浦和ミュージックホール
【その他 官能小説】

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インタビュー ウィズ いずみ-2

 ステージでは披露していないが、いずみのデビュー曲のカップリング曲はフォークのカバー、しかし確かに演歌になっている、といってこぶしをころころ廻すとか唸るとかという事ではなく、いずみが持っている日本的情緒と言うようなものが滲み出る感じなのだ、それを表現する歌唱力も持っている。
 「ですから高校を卒業して迷わず師匠の付き人になりました、お祖母ちゃんも応援してくれて、大学に行ったつもりで4年は我慢して頑張りなさいと言ってくれました、それより一年早くデビューできて凄く喜んでくれましたけど、その半年後には心臓発作で・・・もう一年遅かったらおばあちゃんに私のステージを見てもらえませんでした」
 いずみは21歳で歌手デビューを果たしている、俺はその頃23歳だから演歌には興味がなくてその曲は知らない、しかし30位くらいまでは上がるそこそこのヒットではあったようだ、演歌好きなら知っているのだろうが。
 しかし、一番のヒットはデビュー曲、その後はジリ貧になって行ったことも調べてある、歌唱力は充分だし、若くてルックスもいい、演歌界にとっては期待の新星だった筈だが・・・。
 「色気がなかったんです、演歌ですからやっぱり立ち振る舞いや表情に色気がないと・・・そんな頃、師匠もちょっとしたスキャンダルに巻き込まれて・・・テレビやラジオ出演もすっかりなくなって地方廻りが始まりました、それでも最初のうちはデビュー曲を覚えていてくれるお客さんもいてお客さんも入ってくれたんですが、一年、二年と経つうちにだんだんお客さんも減ってしまって・・・」
 「みどりに会ったのはその頃?」
 「ええ、忘年会シーズンに大きな温泉ホテルでのショーに呼んでいただいて、そこのラウンジにみどりさんが出ていたんです、楽屋が一緒でお話しする様になって、みどりさんのショーを拝見しました」
 「何か感じるものがあったんだ」
 「自分に欠けているものが全部そこにありました・・・ホテルでのショーですからオープンとかまな板とかはなかったんですけど、お客さんも惹き付けられてました、私もすっかり惹きつけられちゃって・・・ストリップって奇麗なものだなぁって・・・みどりさんって色気だけじゃなくて品もありますでしょう?」
 「それで弟子入りを志願した?」
 「ええ、それまでは人前で裸になるなんて考えもしてませんでしたけど、洗練されて完成された芸だと感銘を受けましたから、自分もそんな芸を身に付けたいと思いました」
 「みどりはその時何て?」
 「『あなたは歌と言う芸があるのだからそちらで頑張りなさい』と」
 「そう言うだろうなぁ・・・それでも諦めなかったんだ」
 「ええ、おこがましいようですけど、『歌手ってCDも大切ですけどやっぱりステージが命だと思ってましたから、ステージで魅せるようにならないと歌手としても中途半端だと思うんです、ですからお客さんを惹き付けることが出来る色気を学びたいんです』って」
 「それっておこがましい?」
 「だってストリップ一筋の人には生意気に聞こえません?歌手として一皮剥ける為にストリップを教えてください、なんて」
 「まあ、踊り子さんたちって懐深いからね、そうも思わないだろうけど・・・結局弟子入りさせてくれたんだ」
 「『ストリップに師弟関係も何もないけど、もし本気なら浦和ミュージックホールに出られるように話してあげる』と・・・それでプロダクションに断りを入れて歌手を廃業して浦和に来たらちゃんと歓迎してくれました、1回目の興行が始まる前には稽古もつけてくれました」
 「プロダクションを辞める必要はあったの?」
 「いえ・・・でも自分の中でけじめをつけないと・・・それに劇場のストリップではオープンもしなくちゃいけないとわかってましたから、退路を断たないと出来ないような気がしたんです」
 「真面目だね」
 「いえ・・・だっていつか歌手に戻りたい、そのための修行だと思っていたんですから、やっぱり生意気です、でもみどりさんだけじゃなくて皆さん良くしてくれて・・・」
 「一生懸命なら認めてくれるよ、踊り子ってそういう懐の深さを持ってるんだよね」
 「ええ、再デビューが決まって踊り子を辞めると決めた時も送別会までしてくれて・・・」
 「そういう意味ではいい職場だよね」
 「ええ、本当に」
 
 21歳の頃のいずみのステージがどんなものだったのかは知らないが、今日見たいずみのステージ、最初に一曲だけ歌った時の様子はストリップの経験がしっかり生かされているように思えた。
 着物を脱いだりはだけたりするわけではないが、所作の一つ一つが滑らかで美しく、指先にまで情念が感じられる、表情一つとっても過剰に色気を演出するわけではないが、もしいずみを抱きしめたときにこんな表情をされたら堪らないだろうなと思わせるだけのものがあった・・・それだけに踊り子を辞めてしまうのは返す返すも惜しいのだが・・・。

 いずみの再デビュー曲はやはり30位くらいの中ヒットになった、一度テレビで歌う姿を見たが、今度はジリ貧になることはないだろう、必ずしり上がりに人気を得ていくだろうと確信が持てた。
 そして、俺にとって、と言うより、おそらくみどりにとって何より嬉しかったのは、一年間の踊り子修行を隠そうとせずに、むしろ誇らしげに語ってくれていたことだ。
 実のところ、俺も記事に『踊り子修行で一皮も二皮も剥けた歌手』と書いている、まあ、1/100、いや1/1000くらいだろうが、いずみを後押しできたんじゃないかと思っているんだが・・・。


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