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〜花蘇芳〜
【その他 官能小説】

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〜花蘇芳〜-3

妻と子が散策から戻ったとき、父を一緒に連れていたのは意外だった。
しかも、父はだらしなく瑞枝に寄りかかっている。私は思わず声を荒げていた。

「おい、なにをやっているんだ」

攻撃の矛先は父ではなく妻に向けられていた。何故か父がしなだれかかるその姿にいやらしさを感じてしまったのだ。

「あなたっ!!」

妻の声は切迫していた。しかしそれは私が想像していた後ろめたさから来るものではなかった。

「あなた、お義父さんが」

私は急いで三人のもとに駆け寄った。
あれから瑞枝たちの後を追っていったらしい。取引先からの電話が入り、私が席をはずしていたあいだのことだ。
私の目を盗んで追いかけたなどとは思いたくなかったが……。
父はぐったりとしたまま動かなかった。

父を屋敷に運び込むと、すぐに主治医を呼んだ。
往診の間中、何故か瑞枝が住み込みのお手伝いに怒られていた。使用人風情と言う無かれ。私も昔から知っている古株で一度は身を退いたものの、父の身を案じて復帰してくれた年来の友人でもある。

「この二、三日は御加減がよろしゅうございましたが、ここ最近は臥せっていることの方が多うございます。それを……」

いかにも瑞枝が連れ出したかのような言い草だが、ここは我慢するしかなかった。この人にはまた父の世話を頼まなければならない。

「悪かったよ、静さん。知らなかったんだよ、俺も」

医師の見立てによると過労らしい。今日は少しばかり張り切りすぎたようだ。
静さんの許可を得て、私と妻は父の部屋に入った。絵画や年代物の骨董品等が多数飾られているが、どうにも薄ら寒い部屋だった。
そこに居心地が悪そうに父が寝かされていた。

「お義父さん、大丈夫ですか」

瑞枝が枕元に座った。
父の目に私は映っていないようだった。瑞枝に向かって手を差し伸べる。
妻はしっかりと骨ばった手を握った。

「み、瑞枝……来てくれたんか……」

弱々しい声ながら妻を呼び捨てにされたのが癇に障った。
父の目がせわしなく動く。熱っぽい目つきで妻を見ているのは一目瞭然だった。

「瑞枝、起こしておくれ……」

甘え声に瑞枝は素早く動いた。
父は抱きかかえられた際、妻の背中にしっかりと手をまわしていた。瑞枝は身体を支えきれず、父の上に倒れかかった。

「あ、あなた……」

妻からの求めでようやく私は動いた。
妻を解放すると、横たわる父に向かって冷然と私は告げた。

「心配ないみたいだから俺たちは休ませてもらうよ。明日には俺たち引き上げるからさ、ゆっくり養生してくれ」

父を残して、私たちは部屋を後にした。


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