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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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4. Speak Low-23

 そういうことか、私は何て馬鹿なんだろう。悦子は二人の様子に或る考えに行き当たった。ジャム無しで紅茶を飲めないなんて嘘だ。普通に考えて当然だ。大事な息子にショックを与えないように追っ払い、これから自分を詰問して身を引かせようとしているのだ。そしてこの小姑もグルだ。普通この子が買いに行くだろ?
「……あ、あのう、職場ではどういった……?」
 くそう、負けないぞ。ブリッ子の仮面をかぶったこの姑にどれだけ反対されようが、先ほど仏壇の前で愛を確かにしたばかりだ、身を引くつもりなんてさらさらない。――愛を誓った相手は計略にまんまとハマり、私を守ることも忘れて外出しちまったが。
「同じ部署に属してます。翔太さんは私が率いるチームのメンバーです」
 声は震えたが、悦子は顔を上げて母親の目を見ながら言うと、母親も先ほどまでのはしゃぎっぷりがなりを密めていた。
「ま、まぁ……、ということは、え、悦子さんは翔ちゃんの、上役の方ですの……?」
 うわやくって。いや、上役ですよ? それが何か?
「はい、そういうことになります」
「ああ……」母親はエプロンの裾を両手で掴んで、「まさかウチの翔ちゃんが、そんな人の道に外れたことを……」
 人の道に外れる? 私と付き合うことがそんなに?
 怒りと悲しみが同時に起こって悦子は顔が熱くなった。
「いえ、職場では上司と部下ですが、公私混同はしておりません。職場を離れれば、対等に、……男性と女としてお付き合いさせていただいております」
 キッパリと言ってやった。たとえ親とはいえ文句を言われる筋合いはない。平松家に相応しい女かどうかで平松は自分を選ぶわけではないのだ。
「あの、お付き合いされるときは、どちらから……、その、告白なされたの?」
「翔太さんからです」
 あなたの息子さんが、私を選んでくださったんですよ? その前にヤッちゃってること、酒に酔っ払って記憶にないが、どう考えてもそれは悦子から誘っているはずだが伏せる。それでも、彼女になってと告白したのは平松だ。そこはウソではない。たらしこんだ……、可能性はあるが、気持ちは本物。何なら息子さんにお聞きになってください。
「悦子さん、よくOKしたね」
 横から小姑が口を挟む。悦子は怯んではいない、ということを二人に示したくて、ひかりに向かって意図的な笑みを浮かべると、
「はい。私も翔太さんに好感を持っておりましたし、お付き合いさせて頂いている間により強く惹かれましたから」
 と言った。好感を持っていたというのは言い過ぎだが、後半部分は真実だ。
「まぁ……」
 母親はエプロンで顔を覆うと、肩を震わせ始めた。可愛らしい声の嗚咽が聞こえてくる。泣いたってダメ! ネチネチと問い詰めてくるのかと思ったが泣き落としで来たか。可愛らしいキャラを最大限に利用しようとしているな?
「ほらぁ……、悦子さんもこうおっしゃってるじゃなぁい……。ひ、ひかりちゃん……、が、変なこと言うからぁ……」
 嗚咽で不明瞭な母親の声が聞こえてきた。
「……悦子さん、お兄ちゃんに何か弱みでも握られてるの?」
 ひかりが真顔で悦子に問いかけてくる。いえ、ハート以外は握られていませんけど?
「え……、は?」
「だって……、あのお兄ちゃんだよ?」
 ひかりは悦子をじっと見て、正気かというように諭してくる。「ずばり、オタク、だよ? ついこの前まで部屋にゲームのグッズとかいっぱいあったよ?」
「ひかりちゃん、やめてぇ……、悦子さんの目が醒めちゃう……」
 母親がエプロンに顔を埋めたまま首を振って娘を止めている。
「いえ、ゲームがご趣味というのは伺っております」
 ひかりは椅子ごと跳ねて一歩近づいて悦子の顔を更に覗き込むと、
「悦子さんほどの美人なら、何もお兄ちゃんでなくたって」
「いいえ、私は翔太さんと……」
 と言いかけて、ひかりの言葉にやっと二人の真意が掴めてきた。「……あ、あの、お付き合いといいますか、け、結婚を……」
 母親はエプロンから涙目だけを出して悦子に向けた。
「本当に……、翔ちゃんとはラブラブでいらっしゃるの?」
「はい、ラブラ……」
 途中まで言いかけて、何を言わされとるんだ、と一気に顔が真っ赤になった。「……ラブラブです……」
 すると母親がうえーんという声を上げて更に泣き始めた。
「ああっ……! なんて素晴らしい日なんでしょう!」
 ミュージカルの台詞のような声を上げて、「ママ、今日が人生で最高の日よぉっ! 翔ちゃんにこんな素晴らしいお嫁さんが来て頂けるなんて夢みたい! 疑ってしまったわたくしを許してっ、翔ちゃん」
 そのまま歌い出しちゃうのかな、と身構える程の感動に包まれた母親がかぶりを振り続けていた。
「ゴメンなさい。……悦子さんがあんまりキレイだったから、お仏壇のとこ行ってる時に、私が変な事言っちゃったんです」
 ひかりが謝罪の仄笑みで悦子に謝ってきた。
「変なこと?」
「こりゃ絶対何か裏があるよ、って……」
「ありません」
 悦子は笑って、「ちなみに、わたし、女詐欺師でもありませんよ?」
 と言うと、ひかりは、そうかそのセンもあった、と言って笑った。


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