投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

あるカップルのSM
【SM 官能小説】

あるカップルのSMの最初へ あるカップルのSM 0 あるカップルのSM 2 あるカップルのSMの最後へ

1話-1

 暑い日の続く八月のある日、クーラーの効いたリビングでソファに座ってコーラを片手に映画を見ていた斎藤春斗(さいとうはると)は、かねがね思っていたことを隣で同じようにコーラ片手に映画を見ている彼女の吉野朱莉(よしのあかり)に神妙な顔をして切り出した。
「なぁ、朱莉。前から思ってたんだけどさぁ……」
「なぁに、春斗くん? 改まっちゃって」
 朱莉は持っていたグラスをテーブルに置いて春斗に上半身を向けた。彼の顔があまりに神妙な顔だったので少し身構えた。
「いや、あのさぁ……。最近、アレがマンネリ気味じゃないかなって」
「アレって?」
「エッチの事だよ」
「はい……?」
「セックスだよ、セックス!」
 朱莉は肩透かしを食らってグラスの中に少量残っていたコーラを一気に飲み干した。
「なんでそれを今言うの!」
 グラスにコーラを注ぎながら、少し不機嫌そうに語気を強めて朱莉は言った。しかし、春斗はそんな朱莉にも動じずに、神妙な顔を崩さず言った。
「うん……だって今、映画も濡れ場だし……」
 朱莉は注ぎ終って飲んでいたコーラを吹き出した。幸い、口の中のコーラはグラス内に逆戻りして辺りに飛び散ることはなかった。グラスの中ではコーラに波が立ってシュワシュワと炭酸が弾けている。
「春斗くん、馬鹿でしょ」
 実際、映画内では主人公役の俳優とヒロイン役の女優の間でやけに濃厚な色事が行われている。だとしても、今言うことではない。そもそもこんな場面では普通は顔を反らしたり、そわそわしたりで気まずくなったりするものだ。
「俺は馬鹿だけど。そんな奴と付き合ってるってのはどうなんだよ?」
 春斗は少し得意げな顔になって朱莉を挑発した。それに対して朱莉は少しむきになりかけたが、一息ついて心を落ち着かせ、わざとらしく笑顔を作って甘い声で言った。
「馬鹿を好きになっただけだから、わたしは馬鹿じゃないもん」
 その言葉を聞いた春斗は肩をすくめて言った。
「これはこれは、惚れ直したぜ」
 朱莉は春斗の扱い方を知っていた。付き合い初めてもう三年目になるのだ。否が応でも彼氏の性格の特性ぐらいは頭に染みつく。春斗は素直に愛情を示されると有頂天になることを朱莉は知っていた。もちろん、この時も春斗のテンションは鰻登りに上がっていた。最も、春斗の方も彼女の扱い方をマスターしていたが。
「あかりー、惚れ直したぁー。キスしようぜー」
 春斗は語尾を伸ばしてやや強引に朱莉に迫った。朱莉は少し強めに主張すれば断れない性格であることを春斗は熟知していた。
「春斗くん、強引なのはあんまり好きじゃないんだけどっ」
 そう文句を言いながらも朱莉は逃げようとせずに目をつむり、春斗と唇を合わせた。映画はもう本編が終わり、エンドロールに入って主題歌が流れていた。


「それじゃ、そろそろ話の最初に戻ろうか」
 一分ほどお互いの唇の味を確かめあって、ようやく春斗が話を本流に戻した。
「えっと……えす、えむ? もしかして、鞭とかでビシバシやるあれのこと?」
 朱莉は不安に思って、恐る恐る春斗に質問した。
「うん。とは言っても、そんなのは危ないからやらないよ。簡単に縛る感じ? ソフトSMって言った方が抵抗ないかな」
 春斗は鞭やローソクといった本格的なSMは毛頭やる気がなかったので、あっさり否定し、朱莉の不安を和らげようと出来る限り優しく言った。それでも朱莉は不安そうだ。
「でも、痛いんでしょ? わたし、痛いのやだ」
「でも、鞭とかはしないし、道具も専用の物をちゃんと買って安全なようにするから」
 春斗は朱莉の頭を優しく撫でた。セミロングに切りそろえられた髪の毛から放たれたシャンプーの香りが春斗の鼻を満たす。
 先述の通り、朱莉は強引にされれば断り切れない型の人物だったが、春斗はそれにかこつけて自分の要望を強要しようとは決してしなかった。朱莉の方も、春斗は自分の欲望だけを考える人ではなく、自分のこともきちんと大切にしてくれると分かっていたから、すこし不安はあったが了承することに決めた。
「うん……。わかった。痛くしないなら……優しくなら、してもいいよ」


あるカップルのSMの最初へ あるカップルのSM 0 あるカップルのSM 2 あるカップルのSMの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前