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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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2章-2


 校長室に入るなど、美冬は初めてだった。

 どきどきと高鳴る心臓のまま、鏡哉がすらすらと事の成り行きを説明していくのを聞いている。

「しかしねえ、血縁関係もない貴方がいきなり保護者だといわれてもねえ」

「ご心配は承知しています。あ、申し遅れましたが、私はこういうものです」

 鏡哉が懐から名刺を取り出し、恭しく校長に手渡す。

 校長は最初はふんという感じで名刺を眺めていたが、急に小さな目を大きく見開いて、名刺と鏡哉を交互に見比べた。

「えっ!? 貴方が、あの?」

 校長の様子に美冬は内心首を傾げる。

「し、失礼いたしました。鈴木君、これからも新堂さんの言うことをよく聞いて、勉学に励みなさい!」

 いきなり手のひらを返した校長と涼しげな顔をした鏡哉に、美冬だけが取り残されるが、鏡哉に手を引かれ校長室を後にした。

「良かったな。納得してもらえたみたいで」

「……名刺に何か書いたんですか?」

 不思議そうに美冬が尋ねる。

「いいや、なんにも。じゃあ16時に迎えに来るから、正門の前で待っているんだぞ」

 鏡哉はそう言うと美冬を一人残して学校を後にしてしまった。

 その後、教室でクラスメートから「あの素敵男性は誰だ?」と質問攻めにされた美冬は、適当に「遠縁の人」と明言を避けた。

 授業が終わりほっとして帰ろうと校舎を出ると、正門に見慣れぬ黒い大きな車が止まっていた。

「なあ、あれってリムジン?」

「すご〜い、私初めて見た!」

 嫌な予感がして走って正門に辿り着くと、そこには見知らぬスーツ姿の男性が立っていた。

(あれ……鏡哉さんじゃなかった?)

 腕時計を見ると16時を回っていた。美冬はきょろきょろとあたりを見回すが、そこにいる車はそのリムジンだけだった。

 そのとき後部座席の窓が開き、中から鏡哉が顔を出した。

「おかえり、美冬ちゃん。乗って」

「鏡哉さん!」

「ああ、貴女が美冬様でしたか。どうぞ」

 車のわきに立っていた男性は、そう言うとにっこりと笑って後部座席のドアを美冬のために開けた。

「え、あ、はい!」

 促されて乗り込むと、黒い革張りの車内は6人は乗れるほど広々としており豪華だった。

「出してくれ」

 鏡哉の指示で車が動き出す。

 助手席には先ほどの男性が、運転席には運転手が座っている。

「き、鏡哉さん? なんですか、この車!」

 落ち着きなく浅く腰掛けた美冬は、あわあわと鏡哉に尋ねる。

「ああ、これ? 社用車なんだ。この車のほうが私のベンツより大きくて、たくさん荷物が運べるだろう?」

(た、たしかに、段ボール何個も入りそうだけど――っていうか、リムジンに段ボールって似合わない……それより何より、セーラー服の私が似合わない)

「す、すみません。何から何まで――」

 美冬はひたすら恐縮して縮こまる。

 今更ながらに自分はとんでもない人の家政婦をしているのだと、美冬は自覚した。

 美冬のマンションに到着すると、美冬は急いで当面の生活用具と服を見繕い段ボールに詰めた。

 それでも切り詰めた生活をしていた美鈴の荷物は、段ボール2つ分にしかならなかった。

 荷物を載せて車を鏡哉のマンションへ向かわせると、鏡哉は美冬に振り返った。

「少ないな。今週末、服買いに行くぞ」

「え……ええ〜〜っ!?」

「なんだ、いやなのか?」

「嫌というか、私はただの家政婦なので、そんなお気遣いは――」

「いいのいいの、社長のやりたいようにやらせてあげて下さい。この人、言い出したら聞かないから」

 いきなり今まで黙っていた助手席の男性が口を開いた。

「申し遅れました、私、秘書の高柳と申します。美冬様、以後お見知りお気を」

「見知っとかなくていい」

 鏡哉は苦い顔でぼそっと呟く。

「あ、こちらこそ。鈴木美冬です。あの、様はやめてもらえませんでしょうか?」

 ただの家政婦に様付けで呼ぶなど、どう考えてもおかしい。

「じゃあ、美冬ちゃんで。いいですか社長?」

「……勝手にしろ」

 そんなやり取りをしていると、リムジンはマンションの前に到着した。

 荘厳な車寄せに止められ、外からホテルのドアマンのような男性にドアを開けられる。

「お帰りなさいませ、新堂様」

「荷物があるんだ、運んでおいてくれ」

「かしこまりました」

「え、自分で運びますよ?」

 慌ててそう言う美冬の手を取って、鏡哉は車から降りる。

「社長、では明日は朝一から会議ですので」

「わかった。ご苦労さん」

 高柳はそう言い残して、リムジンで去って行った。



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