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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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1. Someone to Watch over Me-4

 ずっと父親や周りの職人達を見てきている。皆、体躯が良くいかにも力強そうな男たちで、悦子も「男らしくなければ男ではない」と思ってきた。中学くらいから格闘技にハマり、理想のタイプは大学時代にグレイシー柔術で最強と言われていた男だ。逆三角形の胸と隆々とした太い腕と脚がたまらなかった。そしてそれを周囲に言うとポカンとされるか、ああ権藤さんらしいと思われるかどちらかだった。
 しかし大学生の時に彼氏に名乗り出てきた男以降、今日まで悦子に恋愛的な興味を示してくる男は皆同じタイプだった。何で「草食系」なんて流行ってんだよふざけんな、と愚痴を言いたくなるほど、悦子を慕って言い寄ってくる男は皆ナヨっとしていて、線の細い男たちだった。彼らの中にも整った顔をしている、世間一般でも「カッコイイ」と言われるだろう男はいた。だが皆が皆、色っぽい雰囲気になったとたん、全員がまるで女神に接見が叶ったがごとくに上目遣いに恍惚とした顔貌を向けてくるのだ。
「きっと、M男を引き寄せるフェロモン出てんだね、あんた」
 この歳になるまで何人かと付き合ったことはある。しかし――、
「M男はもういいんだ! もうエッチの時に『踏んでください』なんて言わない、普通の男がいいっ!!」
 全員が体を合わせる段になったら、悦子の美脚の前にひれ伏し、敬語で悦子のその神々しい体を授けてくださいと懇願してきた。
「あー、何回もそれ聞いた。……うん、まずは、ね、悦子、ちょぉっと声のボリューム落とそうか」
「もっと引っ張ってくれる男が好きなのっ! 私も壁ドンとかされてみたい!」
「世の中の女のほとんどは壁ドンとかされたことないよ?」
「世の中の女のほとんどが踏んだことのないチンコいくつ踏まされたと思ってんだよ。根元の辺りの袋のむにゅってした感じなんか……」
「よし、黙れ。……あんたスゴいね、それで何でセンマイ食えんだよ」
 ちょっと酔っ払い過ぎだ。こりゃだいぶたまってんな、と思いながら、美穂は個室から顔を出して店員に小声でウーロン茶を一つ頼んだ。仕事が大変な上に変にトップキャリアウーマン的に祀り上げられて、さらには男に恵まれていないなんて可哀想だな、と半ば本気で思う。
「……泣いちゃおっかなぁ、私……」
「泣いていいよ。……まぁ、まずは男作ったら? 彼氏できたら仕事にも身が入るって。マッチョなヤツ探してやるよ」
 喋らせるより泣かしておいたほうがマシか、と、もはやテーブルの上に斜めに崩れて、頬から垂れる髪を撫で付けながら半目で呟く悦子の頭を美穂が宥めながら撫でてやる。
「マッチョで、男らしいのね。……体鍛えてるヤツってさぁ、ナル多いから、M多いんだよねぇ……」
「あんたが言うと深いな」
「……でももうさ、マッチョじゃなくてもいいんだ……、体は後からでも鍛えられるから。とにかく、Mじゃない男がいい……」
 ウーロン茶お待たせしました、とさっきの若い店員が入ってきたところで、「あぁ……、セックスしてぇよぉ……」
 美穂はぎょっと目をむく店員から慌ててウーロン茶を受け取って、お兄さん、私とこの女を一緒にしないでね、と表情だけで必死に訴えつつ、空いた皿を引き取ってもらった。
「……もう、マジで勘弁してくんない?」
「だってさぁ、今思ったんだけど、私普通のセックスしたことない」
「その話はいいから」
「てか普通じゃないのも、もうずっとしてない。苗字はともかく、私、悦子なんてエッロい名前してんだよ? 私放っておいて世の中の普通の男は何してんの? 誰とセックスしてんの?」
「ちょ、ほんとマジで。してないからってサカんのもいい加減にして」
 何でこの女、焼肉屋でセックスセックス連呼してんだ?、と美穂は何とか軌道を正常に戻そうと必死に話題を考えて、「何かさ、楽しいこと考えな? ね? ……あ、前言ってたじゃん。部長に人増やしてくれって直訴したんでしょ? あれどうなったの?」
 と訊いた。
「あ、そうだ」
 むくっと悦子が身を起こした。「新しい子、明日来るって」
「へぇっ、良かったじゃん!」
 美穂は悦子のテンションを上げようと、殊更に明るく言った。
「まー、猫の手どころか孫の手でも欲しいくらいだからねぇ……、何かの役には立つでしょ、きっと。……あー、でもさ、施工センターから部署替えで来るんだ。私、あっちのヤツらに嫌われてるからなぁ」
 眉間を寄せる悦子に、またシワ寄ってるし、と思いながら、
「あ、でもさ。私、相模原のセンター行ったことあるよ。あそこ、現場やってる人間多いから、結構ガテンチックな男いたよ」
 ほらほらあんたの好物ですよ、という美穂の表情につられて、悦子の虚ろだった瞳に少し光が戻ってきた。
「そっかぁ……、いい感じの子、来るかなぁ」


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