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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-3



奏多の言った言葉が理解出来ず、怪訝な顔をして聞き返す和音を見て奏多は無理やり手を引っ張って再び練習場の扉を開けた。何も言わずに連れて行かれる和音は戸惑う。

「ちょ、ちょっと・・!」
「・・・」

扉を開けてすぐに奏多が和音の手を離し、低い声で「そこのソファに座ってろ」と指示を出してまたも練習場に戻っていった。
訳が分からない和音はひとまず何かを怒っている様子の奏多に逆うことが出来ず、休憩所に置いてあるソファに座った。
和音が何かを考える前に不機嫌さを隠しきれていない奏多が戻って来た。その手には鼓笛隊が使う救急箱が握られていた。
なぜ救急箱を持ってきたのか考えていると、目の前に奏多が膝をついて和音の顔をじっと見上げる。
あまり今まで無かった体制に和音は恥ずかしさを覚え、思わず腰が浮きそうになる。実際、そんなことも出来ずにただ慌てて顔を逸らすことしか出来なかった。
しかし、顔を横に向けた事で傷のある頬が丸々奏多に向いてしまった。

「(・・あ、しまった・・)」

やってしまったと思い、慌てて顔を戻すがもう遅かった。
傷の具合をはっきりと見たことによって先ほどよりも明らかに不機嫌だという顔をしている奏多に、和音は後悔しか無かった。
この状況をどう打破しようかと考えていると不意に自分の頬に奏多の手が触れるのを感じた。

「・・か、奏多・・!?」
「じっとしてろ、手当するんだから」

その言葉通り、和音の頬に触れている手とは反対の手で器用に救急箱を開けて消毒液とガーゼを取り出す奏多。

「(・・手当って・・別に良いのに。)」

手当をしなければならないほどの傷なら自分一人で出来るのに。
頭の中でそう考えながらも、すでに消毒液をガーゼに浸している奏多を見てここまで来たら逃げられないと悟った和音はこれ以上奏多を不機嫌にさせたくもないので大人しくガーゼが自分の頬に当てられるのを待っていることにした。

「・・っ・・・!」

少し間が空いて、消毒液を染み込ませたガーゼを傷に軽く当てられた瞬間、和音の口から声にならない小さな悲鳴が出た。和音が思っていたより、切れていたのだろう。
その声を聞いた瞬間、ガーゼを持つ奏多の手がびくついたのが分かった。そのあと、不機嫌だったはずの表情が珍しく真剣な顔つきに変わって、さらに優しくそうっとガーゼを当ててくる奏多の様子に、和音は悟った。

「・・奏多、もしかしなくても、人の手当するの初めて・・?」
「っ!」

聞いた途端にビクッと反応する奏多を見て、あぁ間違っていなかったと悟る。
答えるどころか何も言わないまま、奏多はガーゼを置き、少し長めの絆創膏を取り出して和音の頬に貼る。またもその貼り方も恐る恐るといったもので、とても慣れているとは思えなかった。
その頼りない貼り方に絆創膏は反抗を見せたのか軽く端の方に空気が入ってしまった。
また、絆創膏では傷全てにガーゼ部分が当たらず、テープにまで傷がはみ出てしまった。

「・・っあ・・」

その、やってしまったという戸惑いの反応と頬の感触に、状況が理解できた和音は自分の手でごしっと拭うように絆創膏をなぞって頬に貼り付けた。
傷がテープ部分にはみ出たことを気にしている奏多に、大丈夫。と声をかけた。

「・・とりあえず、お礼は言うよ。ありがと」
「・・・おう」
「まぁ、してもらわなくても良かったけどね」

そう本音を漏らした和音に、手当の後片付けをしていた奏多は再び不機嫌な表情をした。
だが、今度はすぐに口を開いた。

「良くないだろ。和音は女の子だろ、顔に傷残る訳にいかねえし」
「・・は?」
「大体、手当もロクにしてねぇし、自分が傷を負って気にされねえとでも思ってんのか」
「・・・」
「ちょっとは考えろよ。ったく・・」

そのまま、奏多は片付け終わった救急箱を持って練習場に戻ってしまった。
一人取り残された和音はそっと手当されたばかりの絆創膏に手を当てて、ソファに深く座り込む。
ただ話して帰るだけのいつもと、突然扱われ方が全く違う奏多に戸惑いしか無い。


「・・・何、あの人・・」


小さく、震えるような声が辺りに響いた。




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