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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-2


朝ご飯を食べ終えた和音はすぐに家を出た。向かうのは練習場所の最寄駅。
自宅の最寄駅から電車に乗り、一回乗り換えながらも20分で着く事ができた。
もう何年も通いなれた道を通り、練習場所に向かう。途中、コンビニに立ち寄り、練習中に喉を潤す為の飲み物を購入することも忘れずに。
そうして無心なまま、和音は練習場所にたどり着いた。集合時間前だというのに、もう子供たちは来ているようで既に中から賑やかな声が聞こえている。
その何も汚いところを知らないが故の無垢で純粋な声に、朝から嫌なことしかなかった和音は顔をしかめる。

「(・・気が進まない。)」

ドアを開くだけなのに、和音の手はドアの引手にかけたまま。

「(はぁ・・なんでこんなの引き受けたんだろう。今更ですけど・・)」

もうこのままこの扉を開けずに帰ってしまおうか。
そう邪念が頭を過ぎった瞬間、扉のすぐ向こうに人の気配を感じた。
誰か出てくると咄嗟に悟った和音はドアにかけていた手をバッと離して一歩引いた。
和音が悟った通り、扉が開いた。
しかし、その扉から出てきたのは和音を再び鼓笛隊へと引き込んだ人だった。

「!!」
「・・うぉ!?和音!?」
「奏多・・」

まさか扉の向こうに和音、いや人が居るとは思ってなかったのだろう。扉を開いたまま、奏多は驚いていた。
そんな奏多を他所に、和音はチラッと奏多が持っているペットボトルを見て、飲み物を飲む為に出てきたのかと悟った。この練習場の中では、飲食が原則禁止とされている。故に、飲み物を飲む時や食事やおやつを食べる時は練習場の扉の前にある休憩所に出ることが暗黙のルールになっている。
いくら元とはいえ、隊員だった奏多もそれに従わない訳にはいかないのだ。

「和音、来てたのか。」
「・・まぁね。・・ていうか、奏多、来るの早くない?」

まだ練習時間前・・。という和音の台詞は奏多がペットボトルのキャップを開ける音で消された。ごくごくと水を飲む奏多を一瞥して扉の向こうを見ると、やはり子供たちが元気に走り回っているという想像していた通りの光景が広がっていた。
見慣れた光景に小さく溜息をつくと、満足するまで水を飲んだ奏多がじっと和音を見ていた。

「なに」
「・・・和音、何かあったのか?」
「・・・は?」

じっと顔を見られていることがどうも落ち着かなくて、疑問符なしで問いかけたら突然の状況確認の質問。顔に出ていたのだろう、奏多が変わらず和音の顔、正確には頬をじっと見つめながら言う。

「頬、怪我してんじゃん。」
「・・あぁ・・」

そういえば、朝姉に雑誌を投げつけられたっけ。
その台詞は和音の心の中で発せられた。さすがに、いつもの姉妹喧嘩を他人に話すようなことをしたくなかった。もし話したとしたら、原因も説明しなければならなくなるようなことは今の和音にはどうしても避けたかった。ただ、怪我をした場所が場所なだけに上手い言葉の説明も出来そうにない。
だから、

「別に、何でもない。」

と、ごまかすしか無かった。勿論、それで納得するような人だとは思えなかったが。

「でもさ・・」

ほらね。
予想通りの引き下がらない言葉に、和音は奏多を放って練習場に入る事でかわした。
大胆な無視に、奏多は慌てて和音を追う。

「あ、おいっ、和音!」
「何でもないんだから気にしないで。」

先程よりも低いトーンで奏多に吐き捨てる。ついでに、自分の荷物も隅の方に置く。
羽織っていた上着を脱ぎ、荷物の上に乗せてから奏多に向き直る。

「それに、怪我してようがホルンを吹くことに支障無いんだからいいでしょ」

呆れた調子で言葉を言った。頬の怪我が、ホルンを吹くことと関係ない。
そう思って言った。頬の傷を気にしていては、ホルンと向き合い、吹く事が出来ない。
自分の状態がどうであろうと、楽器を吹く時は向き合うべきだ。
和音はそう思っているし、朝姉に言われたばかりだ。間違えるはずがない。
しかし。

「そういう問題じゃないだろ。ちゃんと手当しないと傷になる事くらい分かるだろ!」
「・・は・・?」
「っ、来い!」



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