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愛しているから
【青春 恋愛小説】

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ふがいないや-5

中に入った修は、俺に見せた険しい顔からうって変わって、あのへらへらした笑顔で女性陣に話しかけていた。


また石澤さんにちょっかいでもかけているのだろう、彼女が切ったとおぼしき輪切りの玉ねぎを目の前でつまみ上げ、じっと見つめては首を傾げる修の姿が目に入る。


切り方について難癖つけられた石澤さんの、真っ赤になってムキになる様子と、それを笑いながら見ている本間さんと、沙織。


馴染みの光景なのに、沙織が笑顔を見せれば見せるほど、さっきの“別れたくない”と泣きじゃくる顔と重ねてしまって胸がひどく痛む。


なあ、沙織?


やっぱり俺も別れたくないよ。


今さら、前言撤回なんて、やっぱり卑怯かな?


でも、州作さんが本気で沙織を奪おうとしてると、どうしようもないくらい焦るんだ。


あんなこと、言っちまったけど、俺は沙織が――。


ふと、カウンターから沙織がこちらを見て、思わず息を呑んだ。


いつもの沙織なら、目が合えばその大きな瞳を細めて、微笑んでくれた。


今までの積み重ねてきた絆に、わずかな望みを賭けて、手を振ろうとした。


修と石澤さんのやり取りを笑いながら見ていたなら、その勢いでこちらにも笑いかけてくれるだろうと。


だけど上げかけた俺の右手は、胸元あたりで石のように固まってしまった。


なぜなら、ついさっきまで笑っていた沙織が、俺を見た瞬間、すごく気まずそうに目を反らせたから。


そして、そのまま彼女は俺の方を見ないまま、再び修と石澤さんと、本間さんと楽しげに話し始めた。


言葉のアヤとはいえ、俺が自分で蒔いた種。


だけど、もう沙織が微笑んでくれないことが、こんなにも辛いなんて知らなかった。


――もう、取り返しがつかないとこまで来てしまっていたのか。


血の気が引いたみたいに、ゾク、と鳥肌がたつ。


そして、俺のいない世界で楽しそうに笑う彼女を、ただボンヤリと眺めることしかできなかった。




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