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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 1.-2

「なにヨソ見してるんですか? ちゃんと聞いてください。憶えてもらわなきゃ、辞めさせますよ? 本当にそうやって不真面目だった人が、初日を前に採用取り消されてるんですからね?」
 かなりライトなアッシュカラーの髪色をした女は、165cmには届かない陽太郎とほぼ同じ背の高さで真正面から、ですますを用いながらも表情は仏頂面で叱責してきた。
「あ、すんません……」
「……もう一回最初から説明します。えっと……」
 女はマニュアルを1ページ戻って最初から説明し始めた。聞いとったがな、と思いながら、グループの残りの男女に小さく頭を下げた。同じグループの女の子二人は、災難だったね、と言うかのような苦笑いを社員の女に見つからないように向けてくれた。このグループの指導担当になった女は、そもそも冒頭から愛想が良くなく、他のグループの担当が笑いを交えて指導しているのを垣間見ていると、明らかにハズレだと思われた。
 エスプレッソマシーンの使い方を教えている女の名札を見てみると、「四方木」と書かれていた。なんて読むねん。研修中に名札が目に入るたびに読み方を考えながら、無愛想な女の指導を受け続けた。
 研修の最後に、自宅に送られてきていた用紙を女の所に持って行くと、紙面の研修受講という欄に「済」の印鑑を押された。一応合格、とひと安心していると、
「……お店に入っても、女性のお客様にヨソ見しないでくださいね? それから――」
 指導担当欄に「四方木」と書きながら女は、「お客様の胸がどれだけ大きくても、チラチラ見ないようにお願いします」
 と言った。陽太郎は顔を赤くしながら、
「あ、ちゃいます。名札……」
「はい、名札ですね。お客様は名札をしていませんから」
 女は、はい次、というように陽太郎に用紙を押しつけるように渡して、隣の女の子に用紙を差し出すよう催促する手を伸ばした。
 なに自分で巨乳とか言うとんねん、……ま、巨乳やけど。
 陽太郎は用紙をカバンに仕舞いながら部屋の出口の方へ歩みを進め、一度振り返って女のほうを見た。遠目に見ると研修担当の女子社員の中でも陽太郎好みの外見で、特にベストを艶めかしく起伏させるバストは制服の上からでも形の良さを伺わせた。しかしあの性格やったらあかんな、と思いながら出口を出た所で、赤羽店に採用された女の子に声を掛けられ、連絡先を交換した。
 だから陽太郎は驚いた。茅場町店勤務に入った初日、鏡の前でマニュアル通りに身装をチェックしたあと更衣室出て、待っていた店長によろしくおねがいします、と一言礼をすると、
「じゃ、今日からヨロシク。聞いてるかもしれないけど最初は『フロアキーパー』中心にやってもらうから」
 きっと社員は笑顔もマニュアルで身につけているんだろう、店長はソツがなさ過ぎるほどの笑顔で頷くと、
「よもぎさん」
 返却カウンターに向かって呼びかけた。ヨモギ?、餅っぽいアダ名やな、と思っていたら、はい、と声が聞こえた後にカウンターから出てきた女は研修中に陽太郎を叱責した社員だった。向こうも自分のことを思い出したようで眉を寄せている。
「今日から入ってもらう藤井くん。向こう二週間くらい四方木さんとシフト合わせてあるから、いつもの通りフロアキーパーからサポートお願い」
「ふ、藤井です……。よろしくおねがいします」
 陽太郎は頭を下げながら、やっと読み方が分かったものの、明らかに自分を歓迎していない女の態度と、研修中のあの「ハズレクジ」の指導時間の記憶にガックリとなった。
「よろしくおねがいします。四方木です」
「……じゃ、詳しいことは四方木さんから聞いて?」
 店長は二人を残して行ってしまった。暫く沈黙があって、女が、はぁ、と聞こえるのを厭わずに漏らした溜息にカチンとなったが、陽太郎はグッと堪えて、もう一度頭をさげた。
「……服装チェック20項目は終わりましたか?」
「はい」
 女は陽太郎を立たせたまま、周囲をゆっくり回って全身を点検の目で眺めた。
「いいと思います」
 女は肩幅に脚を開いて立って両手を真っ直ぐにエプロンの前で組み、背筋をピンと伸ばしながら、「フロアキーパーの仕事内容は何だったか憶えていますか?」
「えっと、『テーブル、椅子、床の拭浄と、残留物の回収』『レストルームの清掃』『ゴミ箱の回収』、……それから……」
 陽太郎は座講で教わったフロアキーパーの業務内容を指折り思い出していた。新人アルバイトの実務的な教育は、客層、繁忙時間や店舗形態が異なるので各店舗に任せてあるが、殆どの店舗ではフロアキーパーから始めるので特に憶えて置いてください、と講師の前置きがあったので、より集中して聞いていたつもりだったが、もうひとつあったはずが思い出せない。
「あと一つあります」
 何やこの女、試しとんのか……。
 正した姿勢のまま、陽太郎の回答を待っている女のやり方にムカっときた。もう一つ、どこだ、と陽太郎は店内を見回した。要は掃除するところだ。すると陽太郎を見ていた女は、顔ごと目線を別の所に移した。
「あっ」陽太郎は女の目線の先を追って、「『エントランスの清浄維持』です」
 陽太郎の回答を聞いて女は頷いた。何やえらそうに、と感じる一方、陽太郎が答えることができるように仕向けてくれたのかもしれない、と気づくと、でももうちょっと優しい方法あるやろ、と思った。


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