投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

鍵盤に乗せたラブレターの最初へ 鍵盤に乗せたラブレター 30 鍵盤に乗せたラブレター 32 鍵盤に乗せたラブレターの最後へ

気持ちと身体-2



 それから二日後の土曜日、午後3時頃、勇輔は『シンチョコ』を訪ねた。
「勇輔やないか」ケネスがエプロンで手を拭きながらアトリエから姿を見せた。
「おっちゃん」勇輔は微笑みながら軽く手を振った。
「待ち合わせか?」
「う、うん。後輩と」
「冬樹やろ?」
「知ってたんだ」
「健太郎の彼女の弟やからな。時々遊びに来るよってにな」
 勇輔は躊躇いがちに言った。「お、俺たちの関係も、知ってるの?」
「関係?」
「い、いや……」勇輔は赤くなって言葉を濁した。

 勇輔を喫茶スペースの椅子に座らせた後、ケネスはにやりとして言った。
「お前はわいと同じ匂いがすんねん。気づいてたで」
「そ、そうなんだ」
「人を好きになるのに性別は関係あれへん。堂々と付き合ったり」
「あ、ありがとう、おっちゃん」

 勇輔がアイスココアのストローを咥えかけた時、入り口のカウベルを軽やかに鳴らして、リュックを背負った冬樹が店内に足を踏み入れた。
 勇輔は振り向いた。そして手を上げたまま、一瞬動きを止めた。
「あ……」
 冬樹は姉春菜と一緒だった。
「こんにちは、勇輔君」
「は、春菜さん」
 勇輔は思わず立ち上がった。
 テーブルに近づいた春菜は、にこにこしながら言った。「あなたとちゃんと話すのは初めてね」
「あ、あの……」
「冬樹をよろしくね」春菜は横に立った冬樹を横目で見て言った。
 冬樹は頭を掻いた。「ごめんなさい、先輩、姉ちゃん、どうしても先輩にあいさつしたい、って……」
「そ、そんな、こ、こっちこそ……」勇輔は恐縮してうろたえながら肩をすぼめて頭を下げた。しかしすぐに顔を上げた。「って、な、なんすか、その『よろしくね』って」
「仲良くしてやってね、っていう意味よ」
「は、はあ……」勇輔は赤くなって春菜から目をそらした。

「俺、」床に目を向けたまま勇輔は言った。「冬樹のピアノ、聴いてるうちに、春菜さんの絵、思い出してました」
「え?」
 勇輔は目を上げて春菜を見た。「やっぱ、同じ芸術家なんだなーって。」
「芸術家?」
「なんか、人の心を掴むって意味じゃあ、春菜さんの絵も冬樹のピアノも同じだって、感じてました。」
「そう、嬉しいわね、そう言ってもらえると」春菜は微笑んだ。「でも、それは勇輔君が冬樹のことを想ってくれてたからじゃない?」
「そ、そうすかね……」
 春菜は隣の弟に目をやった。「冬樹も、音楽であなたに想いを伝えようとしていたわけだし」

 姉の隣に立って、冬樹は照れくさそうに頭を掻いた。
「や、やっぱ、春菜さんって、俺たちの関係、ご存じなんすね?」勇輔が小さな声で言った。
 春菜は何も言わず笑顔で勇輔の顔を見ていた。

「勇輔君のお宅にご迷惑をかけないようにね、冬樹」春菜は冬樹の頭を軽く撫でると、その笑顔を勇輔に向けた。「何か失礼なことしたら、遠慮なく叱ってやってね、勇輔君」

 冬樹は決まりが悪そうに姉の後ろ姿を見送った後、勇輔と向かい合ってテーブルについた。
「ご、ごめんなさい、先輩、姉ちゃん、お節介で……」
 勇輔は額の汗を拭った。「焦ったぜ……。冬樹とは付き合うな、って言われんのかって思った……」
「応援してくれてるよ、姉ちゃん」冬樹はにこにこしながら言った。
「なんか、おまえを気遣ってるってことがびんびん伝わってきたぜ」勇輔はほっとしたように笑って、ストローを咥えた。「いい姉ちゃんじゃねえか」

 ケネスがホットコーヒーのカップを運んできて冬樹の前に置いた。
「冬樹は髪、短い方が男らしゅうてイケメンやで」


鍵盤に乗せたラブレターの最初へ 鍵盤に乗せたラブレター 30 鍵盤に乗せたラブレター 32 鍵盤に乗せたラブレターの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前