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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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重なり-1

 冬樹は音楽室の窓からいつものようにプールを見ていた。泳ぎ終わった勇輔がプールから上がって、キャップを脱ぐ姿が見えた。冬樹はプールサイドを歩く彼の水着の膨らみをじっと目で追った。勇輔は手に濃い緑色のタオルを持っていたが、そのまま窓から遠ざかり、冬樹の視界から消えた。
「(ああ! もう焼け死にそう……)」
 冬樹は窓ガラスに両手を当て、苦しそうに歯を食いしばった。


 勇輔が1000mを泳ぎ終わり、プールから上がった時、音楽室から聞こえていたピアノの音に違和感を感じて耳を澄ませた。その弾き方はいつになく荒れた感じだった。毎日のように音楽室から聞こえてくる冬樹のピアノは、もうすっかり勇輔の耳の奥に染みこみ、その音色は勇輔の身体を徒に火照らせるほどになっていた。

 知らず知らずのうちに勇輔は音楽室に向く窓のそばに立っていた。
 しばらくして、いきなり音楽が途切れた。そして次の瞬間、鍵盤を乱暴に押さえつける大きな音がして、そのままピアノの音はしなくなった。
「えっ?」勇輔は眉を寄せた。
 そんな勇輔を更衣室の入り口あたりから見ている部員がいた。勇輔の妹うららだった。
「(兄貴……?)」


 『酒商あけち』のアーケードに面したディスプレイを手直ししていた大五郎は、丁度通りかかった郵便局員から郵便物の束を受け取った。
 いつもごくろうさん、と言って大五郎は店の奥に入り、レジの脇でその束の輪ゴムを外した。
「ったく、毎度毎度つまらねえダイレクトメールばかり届きやがる」
 不愉快そうにそう呟きながら、その酒屋の主人は興味なさげに、それをまとめてバサリとレジの横に放り投げた。そして再び店頭に身体を向けた。
 その時、一通のダイレクトメールと、その裏に重なっていた白い封筒が、一緒になってひらりと床に落ち、冷蔵ショーケースの下に滑り込んだ。


 うららは窓の外を顔を上げて見たままじっと佇んでいる勇輔に声を掛けた。
「兄貴」
 勇輔は身体をびくつかせて振り向いた。
「び、びっくりした……。いきなり声掛けんじゃねえよ」
 うららは静かに言った。「そんなに音楽室が気になるの?」
「え?」
「今日の冬樹のピアノ、何だか荒れてるみたいだね」
 うららのその言葉を聞いた勇輔は明らかに動揺したように目を泳がせた。
「そ、そうだな」
「兄貴もなんだか、この頃おかしくない?」
「え? お、おかしいって?」
 うららは小さく肩をすくめた。「最近よくぼーっと考え事してるみたいだけど? それに部活中も何か練習に身が入ってない、っていうかさ」
「き、気のせいだろ」
 勇輔は慌てたように妹から離れ、シャワー室に小走りに駆けていった。


 着替えを終え、バッグを担いだ勇輔は、芸術棟の前に自転車を駐めてエントランスから階段を上り、音の聞こえなくなった音楽室までやって来ると、そのドアをそっと開けた。
 中にはすでに冬樹の姿はなかった。
「ん?」
 勇輔はピアノの椅子の下、3つ並んだペダルのすぐ横にダークグリーンのハンドタオルが落ちているのに気づいた。
 彼はゆっくりと身をかがめ、ピアノの下に潜り込むようにしてそれを恐る恐る手に取った。
「(これ、あいつの……)」
 隅の目立たないところに『Tsukikage F.』と小さく書かれているのを発見した勇輔は、次の瞬間そのタオルを自分の鼻に押しつけ、目をぎゅっと閉じて呼吸過多の症状のように荒々しくその匂いを嗅ぎ始めた。


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