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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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本心-5



 『酒商あけち』。
 夕食後、宿題もせずにうららはベッドに横になっていた。
 天井を見つめながら彼女は一つ大きなため息をついた。「何となく……わかってたんだ」

 うららはごろんと寝返りを打ち身体を横に向け、枕元に置いてあるカレンダー付きの時計を手に取って文字盤を見た。
「冬樹と付き合い始めて、まだ五日目……か」うららはまたため息をついた。

 不意にドアがノックされた。「おい、妹、起きてっか?」
 それは兄勇輔の声だった。
 うららはベッドを降りてドアを開けた。
「なによ、『妹』って。変な呼び方しないでよ」うららは勇輔を睨み付けた。「それにあたしこんな早くから寝たりしないから」
「ふて寝してんのか、って思ったんだよ」勇輔はそう努めて明るく言って、ずかずかと部屋に入り込んだ。「ほらよ」
 うららは勇輔が差し出したアップルジュースの缶を受け取った。「あ、ありがと。優しいじゃん。どうしたの?」
 勇輔はうららのベッドに腰掛けて、自分用に持ってきたノンアル・ビールのプルタブを起こした。
「あたしのベッドに勝手に座らないでよ」
 うららはそう言いながら、兄の横に並んで座り、アップルジュースを一口飲んだ。

「デートで何かありました、って顔してっぞ、帰ってからずっと」勇輔はうららの顔を覗き込んだ。
 うららは目を伏せた。「……」
「うまくいってねえのか? おまえと、その、なんだ、あいつ、えっと……」
「冬樹」
「そう、そいつ」
「たぶん……もう時間の問題」
 勇輔は飲みかけた缶を口から離した。

「でも、良かったのかも」うららは微笑んで勇輔を見た。
 勇輔はそんな妹の無理のある笑顔に胸を痛めながら優しく訊き返した。「なんでだよ」
「例えば何度もデートしてさ、キスしたり、深い関係になってからだと、辛いじゃん」
「何も……なかったんだ」
「何よ、残念そうに」
「ちげーよ。ほっとしてんだよ、俺も」
「何でよ」
「妹が弄ばれて捨てられるの、兄が喜ぶか? 普通」
 勇輔は横目でうららを見ながら缶を口に当てた。

「いいんだ。あたしも覚悟はしてた。今までうまくいきすぎだったんだもん」
「やつに何か言われたのか? 別れよう、とか」
「ううん、まだはっきり言われたわけじゃないけどね」
「じゃ、なんで……」

 うららは口ごもった。まさか、目の前にいるこの兄の写真を、付き合っているその冬樹が大事に持っているのを知ってしまった、などと言えるわけがなかった。

「……何となく」
「何だよ、それ」
 うららは顔を上げて唐突に言った。「でもね、いいやつだよ、ほんと、冬樹。嫌わないでね、兄貴」
 勇輔は少し動揺した。「な、何だよ、嫌わないでって、お、俺には関係ないだろ」
「そうだけどさ……」

 少しの沈黙があった。


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