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N県警察
【サスペンス 推理小説】

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N県警察〜青い飴〜-4

 3年前、あれはただの事故死ではなかった。
 娘は学校でいじめられていた。いじめがエスカレートした最悪の結果だった。
 いじめグループに進藤修平はいた。
 「あれは事件だ━━」
 警察官の前に父親である鈴木は必死に訴えた。娘は殺されたのだと。組織は味方しなかった。裏切られた。高校卒業と同時に制服に袖を通してから30年。積み上げてきた全てが崩壊した。
 翌春、進藤は警察の門をくぐり、1年半前に何の因果か鈴木の部下となった。
 繰り返される職場放棄、職務怠慢。
 その度に「反省しろ!」
 そう怒ってきた。だが果たしてそれは不真面目に過ぎる進藤の態度に対して発した言葉だったか。
 人を殺めた事を反省しろ。猛省しろ。そうゆう意味も含まれてはいなかったか。
 鈴木のかつての同僚や赤坂と、劇薬物の話題をする度に進藤は過剰な拒否反応を示した。
 そんな不誠実な態度を1年半も見続け、やがて自分の主張は正しかったと鈴木は確信する。
 そして、進藤を殺す計画を企てた。
 自分は捕まってもいい。あの男が苦しんで死ねばそれで。
 鈴木は本部鑑識課に入って、青酸カリ10グラム程を盗んだ。古巣だったから、誰にも怪しまれず簡単に盗めた。
 初めは茶か何かに入れようと考えていた。やるならば早いうちに…。何かきっかけが欲しかった。
 そこに飴を持った少年がやってきた。
 好都合だと思った。いじ汚いあの男なら、必ずこの飴を口にする筈だ。
 隙を見て、ロッカーに入れてあった青酸カリを飴に入れた。
 案の定、進藤は飴を口にした。
 復讐は完成した。無差別殺人では無かったのだ。
 その後、進藤の葬式に参列した時に、遺族が泣き崩れていたのを見て自分は大変な事をしたのだと気付いた。
 何故自首したのかという問いには、数瞬の間の後に「娘が自首してくれと言った」とだけ答えたらしかった。

 あの時、赤坂が書類を公園で読んでいた時、風が止んだ。
 無風を漢字1文字で表すと凪と書く。
 凪。鈴木の娘の名前だった。
 罪を犯した父を救って欲しい━━。
 あの時、答えに窮した赤坂の前に現れた凪はその願いだったのだろうか。
 N県下水流市青森公園前交番。赤坂は1人寂しく職務机に腰をおろした。平和なここには1週間前、3人の警察官がいた。今はもう自分しかいない。
 再び風が吹き出した。ガタガタと揺れる窓ガラスの音が気になっていた。来春の刑事課異動の事など、頭に無かった。


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