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N県警察
【サスペンス 推理小説】

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N県警察〜青い飴〜-3

 あの日、鈴木は忌引きした。一人娘が亡くなったらしいと、当時同じ交番に勤務していた折笠という中年の巡査長に聞いた。
 高校の理科室で実験中、大量の硫酸が溢れて左半身にかかり、それが原因で彼女は8時間後に死亡した。警察は事故死として処理した。
 研修最後の日、挨拶に訪れた時に鈴木は言っていた。
 「事故なんかじゃない、あれは事件だ」
 独り言に違いなかったが、赤坂の耳には地を這うあの声は焼き付いていた。


 警察寮に戻った後も、あの声が脳を反響し続けた。
 どうゆう意味だ?今更、既に事故として処理されている3年前の件を気にする事も無い。考えるな。塞がりかけているかもしれない鈴木の心の傷をわざわざ広げる必要も無い。今は同僚の進藤の件だ。……進藤なら、調べるだろうか。あの時の鈴木の言葉の意味を。
 時として鬼のように人の心を踏みにじる男だった。職務怠慢もあった。そんな真面目とは言い難い進藤だったからこそ、公園に落ちていた飴を頬張った。あの進藤だったら調べるだろうか。
 3年前の事故死が頭から離れぬまま、夜が明けた。
 赤坂は朝一で下水流署へ向かった。風の強い日だった。
 3年前の調書・報告書等の書類を見つけて人気の無い公園のベンチに腰をおろした。一介の地域課巡査が刑事課保管の調書を無断で見るなど許されない事だからだ。
 それでも無断で見る必要があった。
 書類に目を通し、天を仰いだ。空振りか━━。
 その時だった。吹き荒んでいた風が、止んだ。秋を感じさせる紅葉が平々と舞った。
 風が止んだ…無風。待てよ……確か…。
 赤坂は慌てて書類を見直した。
 事故なんかじゃない、あれは事件だ━━。
 そうか。そうゆう事か。
 あの言葉の意味。いくら薬局や工場、果ては防犯カメラの中を探しても被疑者との接点が全く見つからない理由。無差別殺人は2連続、3連続で被害が出るケースが極めて多いが、今回は全く起きていない事。
 全てが繋がった。あとは……。



 昼の巡回中、赤坂は葛藤していた。
 捜査一課はまだ無差別殺人の線で捜査を進めている。それでは事件は解決しないのだ。赤坂はその事実を知っている。
 だが、地域課勤務しか経験の無い巡査1人が事件を解決させたとなれば、自分の大手柄と引き替えに刑事部は大恥をかく。来春の刑事課異動の件はどうなる?
 言うべきか言わざるべきか。悩みに悩んだ。
 捜査一課には報告せず、尚且つ事件解決が最善だ。その為には被疑者を自首させれば良い。手柄は刑事課に入ってから立てれば良い。結論はこうだった。
 打算的な自分に吐き気がした。知らないうちに組織に組み入っている自分に失望した。この日、人に失望したのはこれで2度目だった。

 赤坂は鈴木を許せなかった。過去に刑事畑を歩き、それを鼻にかけない鈴木を尊敬していた。その鈴木が━━━。
 巡回から戻り、交番の敷居を踏んだ。鈴木の顔が目に入った。
「赤坂、ただいま巡回から戻りました」
 次に続く台詞は既に考えていた。
 「鈴木さん、お話ししたい事があります」




 夕方。N県警本部庁舎記者会見室は記者で溢れかえっていた。
 会見内容は、5日前の警官殺しの被疑者が自首してきたというものだった。
 被疑者は鈴木勝広。現場となった交番の勤務職員。鈴木は3年前の娘の事故死に絡めて、以下のように自供したという。


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