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バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

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拾われて飼われました 後編-1

セリアー二ャが魔導書を手にして涙ぐむ。
(あなたが、コル=スーを召喚して死せる宮殿から私たちを救い出してくれたのですね)
(残念ながら島はクトゥルフに沈められてしまったがな……)
無名祭祀書はヨグ=ソトースの子であるクトゥルフ、ハスター、ヴルトゥームについて記述されている書物である。クトゥルフとハスターは敵対関係にあり、ヴルトゥームはその戦いには干渉しない。
(島から連れ出してきた娘たちと、イタカの竜巻で飛ばされてきた女も、ジョンの補佐で呼ばれたのだ。ジョンはハスターに選ばれし子としてハスターの寵愛を受けているからな)
無名祭祀書は以前は人であった。だがヴルトゥームによって書物となった魔道師である。
(ガーヴィの探している女の子も、ハスターに導かれた者なのですか?)
(それならばクトゥルフが島に閉じ込めようとしたはずだ。それにアルフェスが誰かに執着するとは、どんな魂の遍歴の巡り合わせを持つ者か、わしも気になる。さて、セリアー二ャ、わしをアルフェスに渡してくれないか)
セリアー二ャは無名祭祀書をガーヴィに手渡した。
「黒猫ちゃん、あの本は何なの?」
「王女様、あの老師殿は、いにしえの神ヴルトゥーム
の神具となり世界を渡り続けているのです」
「前に会ったことがある気がするのに、思い出せないということは……」
「霊魂は不滅で、肉体をとりかえては生き続けているのです。だから、その魂の遍歴のうちで老師に会っているのでしょう」
王女エルシーヌはセリアー二ャに説明されて納得したらしく、笑顔てうなずいた。
「黄衣の王の紋章を肌に刻んだ夫婦からジョンは生まれてきた。ハスターの子よね。それにヴルトゥームの魔道書。アルフェスのニャルラトホテプの手。この世界が滅亡してないのが不思議だわ」
王女エルシーヌはそう言うと、セリアー二ャに「アルフェスの監視任務を引き続き頼んだわよ」と言って城に帰っていった。
「黒猫、早く見つけ出さないとこの世界の守護女神がいなくなるぞ」
ガーヴィは無名祭祀書をセリアー二ャに渡した。
(老師、どういうことですか?)
(女神エアルの寵愛を受けてこの世界に現れた娘が、アトラク=ナクアの信者よって別の世界へつれさられてしまったのだ。その娘がいなければこの世界を守護する力がやがて失われてしまうだろう)
(そうなると、この世界はどうなるのですか?)
(ニャルラトホテプ、またはハスターか、あるいは、別のいにしえの神の出現もありえる。そして世界の力の均衡が乱されたら、滅ぼされて再び創造されるか消え去る。アトラク=ナクアがつないだ蜘蛛の糸を使い異世界から渡ってくるものもいるだろう)
豊穣の女神ジェブ=ニグラスはヨグ=ソトースの妻ともハスターの妻とも伝えられている。
(女神が守護していない世界とは、いにしえの神々を調停する力を失った世界だからだ)
「さやか、あなたは調停者として選ばれし者。闇の眷族の女王でもあるのよ」
「よくわかりません」
ディルバスはリザードマンの女王の少女を殺害した。その少女の魂は別の世界へ転生した。
クトゥルフの眷族であるリザードマンの女王はその世界の調停者だった。アトラク=ナクアが世界を融合するには女神の守護を失わせなければならなかった。
クトゥルフは世界の調停者の魂を失ったので、ティンダロスの番犬を解き放った。
「幾千の世界の守護者である魂の持ち主は、ただ一人しか存在しないの。この世界はさまざまな神々が共存している世界で女神が必要なの」
「わたしのいた世界は……」
さやかが言うと、ガーヴィが無名祭祀書を閉じてそれに答えた。
「さやかがこちらの世界に現れたということは、その世界はやがて滅びるかもしれない。ただし、さやかの種族が滅び別の種族が支配しているぐらい先の時代のことだ。両親や友人などに会えなくてさびしいか?」
セリアー二ャはガーヴィがさやかに気をつかい優しげな声で言うのを聞いた。
さやかの両親は離婚してはいないがそれぞれ仕事でほとんど日本に戻らないので一人暮らしだった。また、幼い頃に一緒に遊んだ親友もさやかが私立の名門校に進学したので疎遠になっていた。
もしもこの世界から元の世界に戻ったらさびしいと感じるはずだ。それにガーヴィと一緒にいたい。
「わたしは師匠のそばにいたいです」
ガーヴィは照れくさくなったのだろう。
セリアー二ャとさやかを残して、微笑を浮かべて無名祭祀書を持ったまま書斎から出ていった。
セリアー二ャとガーヴィは再びさやかを探すために、門にして鍵ヨグ=ソトースの力で世界を渡ったことを話し始めた。
血の色の紅、ただ一色の大地も天も、太陽や海もなく昼も夜もない、ただ一色の世界。
生ける火焔クトゥグアの世界で、セリアー二ャとガーヴィはそれぞれ別の世界へ転送されてしまった。
海に眠る太古の王クトゥルフの支配する世界ではない別のいにしえの神の世界へ、セリアー二ャとガーヴィはヨグ=ソトースの力で渡ったが、クトゥグアに見つかってしまったのである。
「さやか、私があなたを見つけるまで何があったか、おぼえているなら話してほしいわ」
「ええ、いいですよ」
さやかはツァトゥグァのことを思い出して、くすっと笑ってから、森の中で何があったのかを話し出した。
アトラク=ナクアはさやかをクトゥルフやクトゥグアの世界ではなく、土の属性の王ツァトゥグァの世界へ拉致したのである。
ツァトゥグァの外見は他のいにしえの神々よりも大きめの熊やパンダに近く、またぬいぐるみのようなふさふさとした感触の毛におおわれている。
さやかは宮崎駿のアニメの『となりのトトロ』のトトロがいるとツァトゥグァを見て思った。
セリアー二ャにトトロと言ってもわからないだろうと「とてもかわいらしくて神様には見えませんでした」と感想を言った。
「私もツァトゥグァに会って見たかったわ。残念」


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