筆さばき、色のとりどり-5
唾液の糸を引きながら唇を離すと、彼女の目の前には太長い怒張がそそり立っていた。初老の痩身に引き比べ、そこだけが壮年であり固太りしていた。何本もの太い血管が木の根のように走り、厳めしささえ漂わせていた。
「さあ、支度がでけた。ぼちぼち取りかかるで」
嘉兵衛はお絹を優しく寝かせ、太腿に手を添え、おもむろに開いた。そして自分の下半身を近づける。女陰は潤（ほと）びて緋色の肉を覗かせており、そこに京紫色のつやつやした亀頭が押し当てられる。
お絹は目をつぶった。秘裂がこじ開けられ、怒張が入ってくる。一気にではなく、ゆっくりと半分ほど入り、軽く抜かれ、今度はズブズブと奥まで入ってきた。お絹の中で快味の薄衣がふわっと舞い上がったような感じになった。その感覚がいったん治まると、彼女は膣に嵌まった肉塊の大きさに思いを巡らせた。
（角蔵さんのと同じくらい？ ……いいえ、旦那様のほうが立派……かも）
嘉兵衛の亀頭は蜜壺のどん詰まりで止まっていた。動かす気配がない。しかし、お絹は自分の膣の襞が、じわじわと肉茎に絡みついていくのを感じた。意識しないにもかかわらず、女陰の肉が男根全体を愛おしげに包むのを感じた。
（えっ？ なにこれ………………）
膣襞の食い締めがどんどん強まり、それだけでお絹は気持ちよくなった。はしたないことに、自分から腰をもぞもぞ動かしてしまう。
「ああっ…………。ううっ…………」
か細いが、官能的な声が漏れてしまう。いまだ、嘉兵衛に動きはない。お絹はのし掛かっている男の背中に腕を回した。軽く抱きしめる。それでも膣奥の亀頭に動きはない。抱きしめる白い腕に力が籠もる。すると、嘉兵衛は怒張をわずかに引いて、それから、ズンッと、ひと押しした。
「……………………！」
お絹は声もなく悶えた。子宮（こつぼ）入り口で確かな快感の火の手が上がった。魔羅は重い押し込みを、ゆっくりと始めた。緩慢な動作だが、着実に火が燃え広がる。
「くうーーーーー………………」
お絹の股が広がり、せり上がる。本格的な交接を待ち望む。しかし、嘉兵衛の抜き差しは、「まったり」を繰り返した。年老いた男の性交（まぐわい）とはこういうものなのだろうか。
「だ、旦那様。…………も、もそっと……」
思わず言ってしまう。
「ん？ もそっと、なんや？」
「……もそっと……速めに……」
「あかん」
「え？」
「色挿しは、淡い色から筆を置いてくやろ」
「……色挿し？」
「そや、色挿しや。淡い色をまず置いて、後から筆を重ねて色を濃くする。……交接もまた同じこと」
「……………………」
「分からへんか。……初めっから強うしたら、はんなりしたものが出けへんやろが」
「……………………」
「そやから、こうして、ゆるりと腰を……」
「あんん…………」
「使うてるんや。始めは、あくまでも、あわあわと……」
嘉兵衛は、まったりとした腰の動きを繰り返す。押し込まれる男根に対し、お絹の女陰は、どうしても迎えに行ってしまう。待ちきれず、秘陰をせり出してしまう。
「お絹は、けっこう、いらちなんやなあ。そないなことでは、ええ色挿しが出けへんで」
（今は、色挿しなんかどうでもいいのに……。そんなことより、もっと激しくして！）
お絹は男を軽く睨んだ。しかし、相手は取り合わない。嘉兵衛の肉の筆は淡彩を描くのみ……。
そうして、じらしが、上方の言葉で「ええかげんにしぃや」と言われるほどになった時、嘉兵衛の腰の動きが、ようやく律動的になった。
「あ……、あっ…………、ああっ………………！」
お絹の目が悦びをたたえた。
（これよ、これ。…………これを待ってたの）
女陰も悦びをたたえ、女の白い汁をドクリと溢れさす。うねる膣襞を掻き分け、怒張が調子よく抜き差しされると、さらにドクドクと溢れる。じらしにじらされただけに、お絹の感じようは色濃かった。
「ああんっ…………。いいっ…………。もっとぉー…………」
男の動きに合わせ、盛んに腰をしゃくり上げて男根を貪ろうとする。白いよだれをダラダラと垂らし、肉茎を余さず食らおうとする。
「なんや、お絹はけっこう、すけべえなんやなあ」
「いやっ。すけべえだなんて……」
その言葉とは裏腹に、怒張の押し込み以上に、女陰が強く呑み込もうとする。すると、嘉兵衛がまた意地悪いことに腰の動きを止めた。
「ああん！ 旦那様ぁ！」
お絹は我慢ならず、自ら盛んに腰を突き上げる。陰部に力を込め、魔羅を食い締める。すると、また嘉兵衛は打ち込みを再開する。
「あああーーーーん。……これぇ…………」
お絹は、さんざん翻弄され、いつも以上に早めに絶頂への階段を昇っていた。そして、嘉兵衛がこれまでのお詫びとばかりに激しく肉竿を打ち込むと、彼女はのど裏を見せて、あっけなく頂点に達した。腰の甘い震えはそこだけに留まらず、腹や脚にも及んでいた。