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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-22

 杏奈のほうは参考書も購入していたから時間がかかり、遅れて優也の方に歩いてくると、
「じゃぁ〜ん」
 顔の前で優也と同じように包装してもらった紙袋を揺らした。「ほい、じゃ、どうぞぉ」
「ありがとう……」
 紙袋を優也に渡すと、杏奈は両手を前に差し出して、手のひらを向けて上下に揺すった。
「あ、……どうぞ」
「ありがとおー。……楽しみぃー」
 紙袋を受け取った杏奈がニッコリと笑ってエスカレーターの方へ向かい始めると、甘く潤う笑顔の余韻に浸る間もなく、優也は急いで追いつき、
「持つよ」
 と言って、参考書が詰まった大きな紙袋を杏奈の手から取った。
「おー、やさしーね。いい心がけだ」
 エスカレータの下段から見上げてくる、はしゃいだ杏奈に、優也はまた胸を絞めつけられるほどの嬉しさに包まれて、杏奈から貰ったリボンの付いた紙袋の紐をギュッと掴んだ。
 目的の単館映画館は百貨店からほど近かった。チケット売り場で杏奈が学生証を出して、学生一人、中学生一人、と告げる。
「僕が、出すよ」
 祖母から杏奈の分も出すように言われていた優也が背後から声を掛けたが、杏奈はこちらをチラリと振り返って首だけ振った。
「そちら様の学生証お願いできますか?」
「あー、忘れちゃったんですよ」
「確認させていただくことになっておりまして……」
 そう言われた杏奈は優也の二の腕をグイッと掴んで引いてガラスの前まで連れてくると、
「どう見ても、学生の子じゃないですかー?」
 優也の顔を指さしてゴネる。いいよ大人料金で、と言おうとしたら、
「……それでは、学生一枚、中学生一枚で二千五百円になります」
 と、あっさり受付が折れた。引き寄せられたときに腕に杏奈の体が当たって、その柔らかさにまた股間が痛くなってしまいそうになるのを必死に押しとどめて映画館の中に入ると、七十席程度しかない映画館は優也の想像よりもずっと狭かった。他の客は、どちらもスーツ姿のサラリーマン二人しかいない。仕事をサボって来て、居眠りするつもりのようで、一番前の列と二番目の列にそれぞれ左右別れて座っている。杏奈と優也は最も観やすい、後ろの方の列の真ん中に並んで座った。
「小さい映画館だから、食べ物とか売ってないんだ」
 杏奈が鞄から小さなペットボトルのお茶を取り出して手渡す。「ちょっと隠して飲んでね。一応、持ち込み禁止みたい」
「うん。……、あ、二千五百円、払うよ……」
「いいよぉ、映画は私が誘ったんだから」
 杏奈は隣の席で体を背もたれに預け、少し睨んだ目で、「何でも女の子にオゴって当たり前、って思ってたら苦労するよー?」
「だって」
「ま、いいじゃん。今日は。じゃ、また別の時オゴッて?」
 何気なく言ったのかもしれなかったが、優也は次また杏奈とどこかへ出かける機会があるのかと思わず胸をときめかせていると、
「――優也くん、この本読んだストーリーって憶えてる?」
「……う、うん、だいたい」
「主人公の兄妹のさー、友達にディルって言う子がいたの憶えてたりする?」
「うん、いたね」
 名前までは憶えていなかったが、印象的な場面があったから存在は憶えていた。「先生も読んでるの?」
「んーん、お話は知らない。……そのディルって子ってモデルがいるんだけど、ご存知?」
「へぇ……、知らない」
「おっしゃっ!」
 杏奈は椅子に深く倒した体の前で、両手でガッツポーズを作ってみせた。「文学関連の豆知識で優也くんに勝っちゃったぁ」
 そうはしゃぐと、ペットボトルを捻って開け、お茶を一口飲んだ。
「……誰なの?」
 ときめきに包む相手だが、得意がられると甘味を帯びた悔しさが勃って答えが気になってくる。
「知りたい?」
「うん」
「どぉっしよーかなぁ」
 杏奈は挑発的な横目を向けて更にもったいぶる。焦らされるとどうしても知りたくなった。
「教えてよ」
「んっとねー……」
 ペットボトルの蓋を閉めながら、前を向き直って答えを言おうとした杏奈がだったが、何かを思いついた顔をした。「じゃさ、私のお願いきいて? したら教えてあげる」
「お願い……? なに?」
 何だろう。大人の杏奈に対して自分ができることはそんなにないのに――。
「あのね、私も、優、って呼んでいい? あ、呼ぶなら、優くんか」
「え……?」
 無力感に一転悲しくなりそうだった優也は、意外な言葉に杏奈をポカンと見た。
「だからさ、優也くん、じゃなくて、優くんって呼びたいわけ。お婆ちゃん以外、みんな優って呼んでるらしいじゃん。何かそのほうが親しみありそうでいいなーと思って」
「そんなの、何でもいいけど……」
 頬が赤くなったのが自分でわかる。嬉しがっているのを杏奈に知られるのは恥ずかしいから、目を逸らして何も映っていないスクリーンを見た。


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