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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-12

「……まーそういうことなんだよ。最初に一番下の数字を、両方に掛ける。こうすると、絶対分母は分数にはならないんだけど、分子の方は分数が残っちゃう場合があるんだよね。したら、もう一回、分子の分数の分母……、って意味わかんないか。これ」杏奈は8/3の3をぐるぐる囲み、「を、もう一回両方に掛けてあげると、分子も整数になるから答えが出る。……どう? 私、分子と分母、一回もひっくり返さなかったでしょ?」
「うん」
「分数と整数の掛け算はこーです。約分はこーなんです。だから、分数の割り算はこーなります。メデタシメデタシ……。ほら、わりとストーリーっぽくなかった?」
「面白くはないけど、ちょっと推理物みたいだった」
「えー、私、今、超楽しかったけど?」
「うん、楽しそうだったね」
「ちょっと。私がスベった感じにしないでくれる?」
 と杏奈は睨んで笑い、「……でもまぁ、分子と分母ひっくり返すやり方よりもマシかもだけど、私のやり方も、答えは出るけどさ、そもそも分数を分数で割るって何なのよ、って感じじゃん? 分数で割るとは何ぞや……、ってのは高校生でも大学生でも説明できないよ、きっと。そもそも割り算っていうのは、すっごい特別な計算でね、『等分除』とか『包含除』っていうムツカシいことが分からないと、分数で割るなんて絶対ピンと来ないの。大学に行っても分からないような理論に基づいた計算法を小学校で習う……、これは日本の数学教育の最大の矛盾と言っていいのさっ。だってさぁ、小学校でこの計算方法が分かってないと、その先の大学受験で合格できないなんてヒドくない?」
 杏奈は喋りすぎて喉が枯れ、お茶を一口啜って落ち着くと、
「……私と勉強続けてみない?」
 と、まるで杏奈のほうが下位かのような上目遣いで優也を見た。
「うーん……」
「私の教え方、長いけど悪くはなかったでしょ? それに……」湯呑をもったまま頬のそばでピースサインをして、「何と、こんなカワイイお姉さんにいつも会えるよ?」
「そうだぜ、優。こいつ、ミスK大だからな?」
 智樹が隣から注釈を入れる。
「先輩。私、準ミスです……」
「ミスとか準ミスって?」
 杏奈の言葉を尻目に、優也が問う。
「ミスコン、……えっと、ミス・コンテストの略か……? つまり、K大で一番カワイイ子がミス。二番目にカワイイのが準ミス」
「なんなんですか、その二流感。……ん、まー、今すぐ答え出さなくていいよ。考えてみてね」
「うん……」
 優也は「ミス」の説明に杏奈の顔を改めて見て、キレイな人だな、と思ったし、今しがたの教え方もわかりやすく、そして楽しく感じていたから、杏奈なら家庭教師になってもらっていいと思っていた。だが部屋に入ってきた時の自分の態度があまりにも失礼だったと思い返されて、今更すぐにお願いしますと言うのは恥ずかしく、この美しい人に無礼であると思い、智樹の横槍に会話を折られたこともあって伝えるタイミングを逸してしまった。
「……てか、足がまたしびれたし……」
 また杏奈は正座を崩して足を擦り始めていた。
 夕飯も一緒にいかがですかと誘う祖母に、
「さすがにこれ以上知らない家に居させるのは可哀想だろ」
 智樹がそれを退け、自宅へ帰りがてら杏奈を駅まで送っていくと言って玄関に向かった。その廊下の途中で、
「須藤さん」
 と祖母が呼びかけた。
「すみませんでした」
 杏奈は振り返り様に頭を下げた。「なんかうるさくベラベラ話してしまって。ヨソのお宅で大変失礼しました」
「いえ、そうではなくて。……優也の家庭教師、引き受けてくださいませんか?」
 智樹が目をむいて、
「どうした、婆ちゃん」
 と言った。
「いえ、先ほど優也に教えて頂いている姿を拝見して……。あの子には、須藤さんのような天真爛漫な方に教えていただいたほうが良いと思いましたの」
「……天真爛漫……」
 杏奈は智樹を見上げ、「褒められました? 私」
「たぶんな」
 智樹は親指を立てて見せる。
「優也がもし嫌がっても、私が受けさせるようにいたします。どうかよろしくお願いします」
 祖母はかしこまって深々と頭を下げた。
「あ、いえ……。こちらこそ、よろこんで、お願いしますっ……」
 慌てて杏奈も頭を下げた。
「――驚いた。あの頑固な婆ちゃんが、あんな短い時間に考え変えるとこなんて初めて見たよ」
 駅に向かう道すがら智樹が感慨深げに言った。
「そうなんですか?」
「まあ、第一印象が婆ちゃんの好み真逆だったからなぁ。……お前、挨拶にくるのにミニスカはねーだろ」
「えー? これ、キュロットですよぉ」
 杏奈は歩きながら眩しいほどに生脚を出したプリーツキュロットをつまんでヒラヒラと揺すってみせる。


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