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不感
【大人 恋愛小説】

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不感-4

とりあえず僕は気を落ち着けるために煙草に火をつけた。
喉が刺激されるほど強い煙草に変えたのも、あの写真を見てしまった頃だった。
くらくらと頭の中が揺れるような感覚に襲われ、頭を枕に深く沈ませた。間違えた。
また、間違えてしまった。
あの写真を見てしまったのも、清水と寝てしまったことも。
しまった。そう思うときには全てが遅く、もう以前には戻れない。
わかっていた。
後悔を生み出す元凶は、いつだって身近にいるのだ。甘い誘惑を手土産に近づき、獲物がかかるのを待っている。
僕はそれに二度もしてやられたのだった。
もう一度深く煙を吸い込んで、鼻と口の両方からため息と一緒に吐き出した。
そうしていると昨晩、清水とのその行為を微かに思いだし、僕は抵抗なくその事実を受け止めようとした。
そもそも僕はその行為で快楽を得られる人間ではなかった。
そして優子もまた同じだった。
お互い何も感じないのだから、僕らがその行為に身を投じたことはあまりなかった。
しなくても、僕らの間には行為以上の愛がある。そう信じていたのは僕だけだったのかもしれない。
しかし、清水と夜を共にしたことは、僕が優子を信じられなくなった証ではないだろうか。
それを思うと、なんて致命的な間違いだろう。
僕は自身と優子を裏切ってしまったのだ。
僕は煙草の頭を灰皿に押し付けて、自分の服に着替えた。
清水の肩を揺らして起こし、謝った。

「僕、今日は会社を休むことにする」

上司に上手く言い訳をしておいて欲しい。
そう言い残して、ホテルを出た。
有給休暇の残りは気にならなかった。
ホテルを出て、始発に乗り、僕は自宅に帰った。優子に謝らなければならなかった。
気の利いたプレゼントも、何も用意していないが、とにかく優子に謝りたかった。
もし今回のことで離婚を持ち出されたって、構わなかった。
自宅のドアの前に立って、深呼吸をした。
そしてドアノブを回して、その手でドアを引く。中に入ると、優子の声がした。

「おかえり」

ただいま。
消え入りそうになる声で僕は返事をした。
リビングにいくと、テーブルで朝食をとりながらテレビを見ている優子がいた。

「久しぶりね」

生活をわざとすれ違わせていた僕を責める色は、彼女の声には含まれていなかった。
僕は優子と向き合うように座り、上着を床に置いた鞄にかけた。

「ごめん」

優子はテレビから目を離さなかった。
ただ眠そうにトーストを噛って、たまにはバターもつけた。
しばらくして、テレビがコマーシャルに入って、ようやく彼女は僕を見た。

「何のこと?」

あ、パンとコーヒーは?
と言って立ち上がろうとする彼女を止めて、もう一度謝った。
ため息をつきながら座り直した彼女も、もう一度僕の意図するところを聞いた。


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