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不感
【大人 恋愛小説】

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不感-2

僕らは、二年間そうやって他愛もない話しをしながら暮らしていた。
波風たたずに、お互いがそれで満足していたと僕は思う。
しかし、そこに幸せという言葉をはめ込むには、言葉以上の意味は持たないようにも思う。
でも、僕はそれでよかった。
きっと、彼女だってそれでいいんだ。
だったら僕らには、問題なんてない。
そこには愛がある。
恥ずかしげもなく、僕はそう信じていた。
しかし、僕はそれを見つけてしまった。
僕はただ、どこかにしまったまま、それをどこにしまったか忘れてしまった物を探していただけだった。
探しても、どこにもなかったから、仕方なく彼女の小物入れに手をつけてしまった。
そこに、見つけてしまったのだ。
彼女にしてみれば、ただの過去でしかない物。
でも僕にしてみれば、彼女の単なる過去の一つでは片付けられない物。
そして見なくてもいいし、見ない方がいいもの。でも、僕は自分に逆らうことができなかった。
手に取ってはいけない。ダメだ。やめろ、やめてくれ。それは見てはいけないものだ。
何度自分に言い聞かせても、僕の手はそれを掴んでしまった。
彼女が前の夫と笑顔で写っている、その写真を手に取ってしまった。
やってしまった。だから、あれほど言ったじゃないか。それは見てはいけないものだと。
僕は深く落胆した。
少なからずショックもうけた。
名前も顔も知らない男と、その横で幸せそうに微笑む彼女。
カメラによって切り取られたその一瞬に、僕は酷く嫉妬していた。
なぜなら、その一瞬には僕の入り込む隙はなく、写真の中の彼女の笑顔は僕の見たことがないものだったからだ。
僕は写真を元に戻して、忘れようと努力した。
隠されていたわけではないだろう。彼女には隠さなければならないという義務はない。
悪いのは全て僕だ。
これは彼女の裏切りでもなんでもないのだ。
勝手に見つけて、勝手に見て、勝手にショックを受けた僕が悪いのだ。
頭ではそうわかっていた。
でも、僕はどうしても裕子の目を見て話すことができなくなってしまった。
訳もなく気まずくなっていた。
だからか、僕は仕事を無理に増やすようになった。
今日は残業だ。
誰かがそう言えば、「だったら僕が代わりにやりますよ」と言うようになったし、外回りにやけに時間をかけるようになった。
僕が悪いのに、何も悪くない裕子から逃げるようになってしまった。
そのことについては、心から申し訳なく思う。
でも僕の気持ちが落ち着くまで、彼女と距離をとりたかった。
あの写真を見てしまう前の、幸せだった日々のように、裕子と一緒にいると僕は自分を抑えきれず、きっと彼女に意地の悪いことを言ってしまう気がするのだ。
お互いのために、というのは建前だが、今は一緒にいない方がいい。
たとえそれが僕の利己的な考え方でも、その方がいい。
その方がいいのだ。
残業になると彼女に告げるため、電話をかけた。
携帯電話から聞こえる裕子の声には、怒りのような感情はみえなかった。

「ごめん、今日も遅くなりそうだよ」

僕は電話越しに頭を下げた。

「そう。大変ね。」

それだけのやり取りを、僕らは何日繰り返しただろう。
それすらも数えることを忘れていた。


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